学芸員資格制度に関する諸情報

 琵琶湖博物館の電子メールによる質問等受付には、就職に関する問合せが少なからず来ます。 その関連で 松下幸司さんの「学芸員への道」(デッドリンク)などを調べていて、「学芸員資格」というものに関する情報が、世間で広く求められていることに気付きました。

 琵琶湖博物館は学芸職員の採用に際して「研究能力」を重視するため、学芸員資格を採用時点での条件とはせず、無資格者は採用後に速やかに取得するよう約束させられることになっています。 私自身も「採用時無資格」で、採用後に通信教育で資格取得しています。 周囲にも、採用後資格取得者がゴロゴロしていて、通信教育・試験認定・審査認定(旧無試験認定)の全てのパターンが揃っています。 さらに「博物館情報論」が必須科目に追加されたことから 資格取得のための講習の講師を務める なんていう経験までしました。

 このような経緯で、現場サイドから「学芸員資格」というものを多面的に見る機会に恵まれた立場に居ます。 そこで、この立場からの「学芸員資格現状論」を少々展開してみたいと思います。 皆さまの一助になれば幸いです。

学芸員資格に必要な専門科目

理系分野では取りにくい制度?

 理系分野の者は学芸員資格が取得しにくいという状況があるのは確かです。 ただ、この状況に対して、

という、誤解に基づく誤った現状分析が見受けられるようです。 学芸員資格の制度自身には理系を排斥するような要因は全くありません。 例えば、所謂「博物館学系の科目」以外の「専門科目」について法令で直接規定されている唯一の制度である「試験認定」の場合、歴史系4科目のほか、自然系4科目(理科の4分野)と「自然科学史」を併せた9科目の中から2科目選べば良いのです。

 では、法制度が理系を排斥していないにもかかわらず、理系に辛い状況が現実に生じている理由は何なのでしょうか? それは、現実の大学教育において制度が運用される中で生まれたものなのです。

専門性は「大学教育」の一般論で保証されている

 調べてみるとスグ判る話ですが、博物館法を中心とする法体系で、本則の方法、即ち「大学で科目履修することによって資格取得する」場合の必要科目として規定されているのは、所謂「博物館学系の科目」だけなのです。 しかし、「科目が規定された“本則でない”方法」である「試験認定」によって資格取得する場合には、博物館学系科目の他に専門科目も要求されます。 このギャップは何処から来るのでしょうか?

 その答えは、科目履修云々以前の「基礎資格」として定められている、「大学卒業」または「大学教育2年+実務経験3年」というあたりにありそうです。 大学卒業=学士の学位(平成3年以前の制度では「学士の称号」)を有するということは、大学で各々の専門科目をきちんと履修して専門性を得ているということですから、それ以上の保証は不要という考え方なのでしょう。 「大学教育2年」の条件も「62単位以上の単位取得」を伴うという条件で、それなりの専門性を要求しているわけです。

専門性の保証は大学の責任らしい

 さて、博物館法を中心とする法体系の建前としては、どんな分野であろうと、相応の専門性を備えていれば、その分野の学芸員になれるということになります。 しかし、実際に所謂「博物館学系の科目」を大学で開講するに際して、各学生の専門分野が「博物館学芸員に相応しい専門性かどうか」ということを大学側で責任を持って判断して保証する建前が要求されているらしいのです。 これには法規上の明文規定がありません。 ただ、佛教大学が通信教育の学芸員資格取得課程を作ろうとしたときに文部省(当時)と大モメにモメたという噂話や、学芸員資格取得に必要な科目の履修を特定学科の学生にしか認めない大学が多数存在するらしいことなどから推測するに、これは文部科学省が大学の講座開講に対する許認可権を行使する中で要求していることらしいのです。

 判断が各大学自身の判断ということになると、例えば「資格取得のために、他大学の卒業生を学士入学させて関連科目を履修させる課程」を開講する場合でも、学士入学させた学生に、その大学の課程で保証できる専門性を確保するために科目履修を要求するということになってきます。

理系分野の者に辛い状況が生ずる理由

 ここまでの話なら、少なくとも建前上は、理系も文系も無いハズです。 しかし、現実に学芸員資格取得課程を開講しているのは、歴史系の学科が多いのです。 この現実が、「理系に辛い」状況を作り出していると言えます。

 例えば、早くから通信教育での資格取得課程を開講している佛教大学と玉川大学は、共に文学部をベースに課程が設置されています(形式的には「学部」とは別に「通信教育部」がある)。 当然ながら、文学部で専門性を保証できる歴史系の科目が要求されることになるわけです。 具体的には、両大学とも試験認定の歴史系4科目に準拠した内容の科目を要求する制度になっています。

試験認定の科目をめぐって

 試験認定の場合には、文部科学省が専門性を直接保証せねばなりませんから、専門科目の試験が課せられます。もちろん、あらゆる分野の試験はできないので、現実の博物館において代表的な分野の科目に限定されています。 ちょっと限定し過ぎという気もしますが、試験を運営する都合上、已むを得ないかもしれませんね。

試験認定の専門科目(9科目中から2科目選択)
歴史系科目 自然科学史 自然系科目
文化史美術史 考古学民俗学 物理化学 生物学地学

大学卒業後に学芸員資格を取る方法

審査認定(旧無試験認定)って?

 学芸員資格取得には、審査認定(2011年度まで無試験認定)という解りにくい制度による方法があります。 関係法令(博物館法施行規則)にも基礎資格、つまり「これを満たしていないと門前払いを喰らわされる」という条件しか書いていません。

 琵琶湖博物館は、冒頭でも述べたように「採用後速やかに取得するべし」なので、内輪の実例が多数あるのですが、博士の学位を有するようなレベルの人が学芸職員として数年間バリバリに活躍していれば、大体において認定されるようですね。

 準備室時代、つまりまだ博物館になっていない時に30歳台半ばで無試験認定に合格した人が居て、快挙だと言われました。 この人は、琵琶湖博物館に関わるようになる前に大学で化石の研究をしていて、博物館への標本提供などの実績が多数あったことが評価されたようです。

学士入学による取得……特に通信教育

 主に私学で、資格取得だけを目的とした学士入学の課程を設けている大学があります。 その大学の卒業生に限っているところもあれば、他大学の卒業生にも門戸を開いているところもあります。 その中には、既に社会人になっている人を意識して通信教育課程への学士入学を認めているところもあります。

 通信教育課程で学芸員資格課程を最初に開講したのは佛教大学で、玉川大学が続きました。私が佛教大学に在籍した1992〜3年にはこの2大学のみでしたが、現在では少し増えているようです。 放送大学も利用できますが、科目が揃っていないので放送大学だけでは履修が完結しないようです。 自前で開講していない科目を放送大学で履修して来いという制度になっている大学もあるようです。

 一般に通信教育課程は目的意識の明確な学生が多いこともあり、要求される努力レベルが高く設定されている傾向があるようです。 基本的に、郵送提出するレポートと、日曜日などに大学や遠隔会場へ出向いて受験する「科目最終試験」のみで評価されるので、個々の評価基準が高く設定されることになるという側面もあるでしょう。

 実習科目は「スクーリング(面接授業)」の制度を利用して行われることになります。 人数が増え過ぎると授業に支障が出るので、他の科目の進捗状況が一定レベルに達することを受講条件にします。 佛教大学の場合は他の科目のレポートが全て提出されていることが条件になっていましたが、それでも半端ではない多人数でした。 この状況では、いわゆる実技的な実習をするわけにもいかず、バスで多数の博物館を連れ回されて、全てについてレポートを書きました。 1日3〜4館の見学を4日間続けるのは、かなりキツかったです。 これに、期間外に自主的に3館以上見学してレポートを出せというのですから、なかなか大変なものでした。

試験認定……通信教育とも併用可能

 試験認定は前述のように専門科目が限定されている他は、基本的には大学での科目履修と対応する形に制度化されています。 そして、大学で相当科目を履修していれば、その科目は免除されるという意味でも、大学での履修科目と対応しています。

 ですから、通信教育の課程を完全に修了しなくても、途中までの履修結果に基づいて、試験認定の科目免除を受けることが可能です。 私自身も、スクーリングを受ける時間的余裕が確保できない可能性や歴史系科目の履修に手間取る可能性を考慮し、博物館学系科目の履修を優先する作戦に出ました。 元々の出身大学で「物理」「地学」に相当する科目は山ほど履修していますから、博物館学系科目さえ揃えれば、試験認定が「全科目免除」となり、全く受験せずに「試験認定合格」になるというわけです。

 実は、博物館学系科目の全部と専門科目の一部(自然科学史・生物学・文化史・民俗学)に関しては、試験認定の科目免除を目的とした講習会が2008年度まで開催されていました。 冒頭で述べた、私が講師を務めたのがそれで、文部科学省の「博物館職員講習」というのが正式名称です。 狭義の博物館学系科目と、それ以外の科目が隔年交替で開講されています。 試験認定に際しては、この講習が大学の講義と同等に扱われるわけです。

 なお、試験認定では「博物館実習」が無いので、「試験合格後の実務経験1年」が学芸員資格発効の条件となります。 (かつては、試験認定の基礎資格が「大学卒業」以外の場合、即ち基礎資格に実務経験が入っている場合には、試験合格によって直ちに学芸員資格が発効していました。 2012年度の制度改正で、基礎資格の実務経験が1年短縮される代わりに、試験合格後の実務経験が要求されるように変わりました。)

博物館学系科目
(全科目必須・但し試験認定に「博物館実習」は無い)
教育学系科目 狭義の博物館学系科目
現行制度 博物館教育論 生涯学習概論 博物館情報・メディア論 博物館経営論 博物館資料論
博物館資料保存論
博物館展示論
博物館概論 博物館実習
1997〜2011年度 教育学概論 視聴覚メディア論 博物館情報論 博物館資料論
1996年度まで 教育原理 社会教育概論 視聴覚教育 博物館学
1997〜2011年度には狭義博物館学系の4科目は、統合して「博物館学」としても良いことになっていた(1996年度までの「博物館学」よりも内容が多い)

どんな人々が資格取得するのだろう

 「博物館職員講習」は定員がかなり厳しく設定されており、各都道府県で受講者を絞り込んでから文部科学省へ申請を上げることになっていました。 そして、現に博物館現場で活躍している人を優先することになっており、私が講師を務めた時も、そういう人がほとんどでした。

 佛教大学の通信教育には、様々な立場の人が居ました。 博物館現場で頑張っている人も居れば、特に具体的な目的も無く、単に生涯学習として履修している人も居ました。 その中で、博物館などの行政職員という立場の人(「学芸員補」に相当する職種ではない人、従って職務上は資格不要な人)が何人も居たのは意外でした。 現場に近いところに居ると意識が高まるのでしょうか?



2003年3月2日初稿/2015年3月5日大規模修正/2016年8月31日最終修正

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