「琵琶湖がとらえた過去の火山噴火」

 この講座は,琵琶湖博物館開館5周年記念連続講座「湖と人間」の中の一つとしておこなうもので,連続講座の第一回目の2001年5月27日(日)に行われます.同じ日に行われる講座は,館長の川那部さん,学芸員の高橋さんが行います.どうしてもこういう連続講座って,本でもそうですが,地学系(川那部さんは違いますが,第一回目のはじめということで全体的な話をします)から始まるので,私が前期の様な人と同じ日に当たってしまうのです.
 講演に先だって渡される,講演要旨を下記に書きますので,興味のある人は見に来て下さい.

日時:2001年5月27日(日)13:30〜
場所:琵琶湖博物館 セミナー室   


 この日時を過ぎてこのページを見ている人は,残念ながら,参加できません(過去に戻れるなら話は別ですが).下の要旨を読んで下さい.



(要旨)

「地層を調べることの意味」
 地層は,ある場所で,なんらかの自然現象によって作られている.たとえば,今の河原に石ころが落ちているのは,川の流れによって上流から運ばれてきたもので,それが地層になれば,その地層は,川という場所で,石を川が運ぶという自然現象を経て,地層が作られたという事になる.地層は現在も作り続けられているが,昔に作られた地層を調べる事は,過去にその場所でどのような事が起きたのか?どういう場所だったのか?などがわかる.
 ものを積み上げるには上へ上へと積むため,古いものほど下にあり,新しいものほど上につまれている.地層も砂や泥が積み上げられて出来る事から,下にあるものほど古く(より昔にたまった),上にあるものほど新しい(より最近たまった)ものといえる.前述のように地層が過去におこったことを示している事を考えると,その地層が作られた場所の自然環境の変化を見ることにつながる.
 地層が作られた当時の環境を知る方法は,その地層がどのようなもので出来ているのか?や地層に含まれる化石などから知ることが出来るが,時代の流れや変化を見るには,地層の重なる順序(「層序」という)を知る必要がある.

「過去の同じ時間面を示す火山灰」
 ・)地層の重なりと広がりを調べるには?
図1  我々の足下にある地層を見るために掘るボーリング調査であれば,一ヶ所の地層の重なりを上から順番に見ることができる.しかし,もっと広範囲の地層の分布や層序(重なる順序)を調べようと思うと,地表に出ている崖などを調べて行く方法をとる.このような調査をする場合,野外でいろんな場所に見えている地層を調べていくが,崖はよほど大きな崖であっても10mよりも小さい事が多く,普通は数m程度で,また崖は点々と存在する.これらの崖にみられる地層は,崖の大きさ分だけで地層が出来たわけではなく,元々はある一定の広がりをもっていたはずで,離れた場所に点々とある崖にみえる地層ももともとは重なっていたり,同じ地層であったりしていた(図1).これは崖で見えているので離れているように感じるが,地中ではつながっている.それらがどのようにつながっているのかは,地層のある高さや傾き加減などから推定し,観察した泥や砂など地層の見かけを参考にして,検討することが出来る.
 このような検討を泥や砂の地層について行う時に気を付ける必要がある.たとえば,現在の環境を見渡すと,湖があったり川があったり,湿地があるなど様々環境が同じ時期に存在している事がわかる.このような環境の違いは,そこで作られる地層の違いとなって表れるため,同時期に作られた地層であっても,平面的な広がりでとらえると,砂の地層が出来ている部分もあり,泥の地層が出来ていることもある.このことは,崖に存在する地層が,狭い範囲であれば,地層の傾きなどから推定したつながりで,同じ泥か砂の地層かどうかがわかるが,広範囲に見る場合には,そのことが適応できなくなる.広範囲に,離れた場所にある地層の同じ時間(つまり同時代に出来た地層)を探すためには,離れている場所でも同じ時間にある事件がおこり,それが地層中に保存され,なおかつ,それが同じもの,または同じ時におこった,ということが検証できればよいのである.それが,地層中にある火山灰である.
・)火山灰が同じ時間をしめす?
 火山灰は火山の爆発的な噴火で噴出する.爆発的と述べたが,一般的に火山の噴火はどんなものでも爆発的というイメージがあるだろう.そのようなイメージとは別に,火山の噴火は大きく分けると爆発的なものとそうでないものに分けることが出来る.ここでいう爆発的なものとは,噴火したときにもくもくとした噴煙をあげるものをさし,そうでないものとは,噴火したときに溶岩を流すようなものをさしている.
 ともかく,爆発的な噴火で火山灰が噴出し,空中にまきあげられ,風などで運ばれ,もうこれ以上飛ばないという所で落ちてくる.そうやって降灰した火山灰は降り積もり,地層に保存される.このような一連の動きをまとめると,火山の噴火はある時突然おこり,広範囲にわたって,場所の環境にあまり関係なく火山灰は降灰する.しかも,火山灰は火山から噴出したものなので,砂や泥などとは異なっており,地層中に見つけやすく,火山灰によって成分や構成物質が異なっているので,同じ火山灰を認定する事が出来る.このことは,先に述べた,地層の同時間を調べるものとしての条件を備えている.
・)同じ火山灰を見つける
図2 昔の琵琶湖が作った古琵琶湖層の中にも多くの火山灰があり,古琵琶湖層の全体像(どれくらいの厚さで,どのように分布し,どのように重なっているか,など)を知る上で重要な役割を果たしてきた.地質調査をする時,地層の傾きなどからある程度地層の広がりや重なりを推定し,層序を検討する.そこでは火山灰が一つの目盛りのような役割を果たし,火山灰を基準にして地層の上下を検討する.また,火山灰自体も,見かけの特徴を頼りに同じ火山灰を見つけ,離れた崖にある地層を火山灰でつなぎ,地層全体の層序を検討することが行われてきた.
 しかし,火山灰も古琵琶湖層だけで100以上見つかっており(琵琶湖自然史研究会,1994),それぞれの火山灰で見かけが似ている事も多く,見かけだけで同じ火山灰と認定するのは難しい.特に,離れた場所にある火山灰が同じかどうかを認定する(このことを「火山灰の対比」という)ためには,確実な証拠が必要になる.そのためにはそれぞれの火山灰の個性を知る必要がある.
 地層中の岩相(見かけ)も火山灰の個性の一つであるが,火山灰そのものの性質も重要である.火山灰の大部分は「火山ガラス」とよばれるものと「鉱物」から出来ている(詳しくは後述).これらが火山灰の性質を示す.火山ガラスの化学成分や,形,色,屈折率,鉱物はどのような鉱物が,どのくらいの量比で入っているのか,や,鉱物の化学成分,鉱物の屈折率,など様々な角度から火山灰を調べてその火山灰の個性を引き出す.そのうえで,同じと思われる火山灰同士に,それらのデータに矛盾がないか?という事を調べていくのである.このようなデータを使っても似た性質を持つ火山灰もあり,同じ火山灰を見つける上では,より特徴のある火山灰のほうが対比はしやすい.そのため,対比のしやすい火山灰から対比を行い,その上下にある火山灰を順番に対比していくという方法をとり,順番に対比を行っていく.
・)地層を火山灰でどれくらい離れていてもつなげることが出来るかの?
 では,火山の噴火によって火山灰はどれぐらい遠くまで拡がるのだろうか?これは,地層の同じ時間を抑えるために,火山灰がどれくらいの範囲で有効であるかをも示している.これまでに行われた火山灰の研究から,青森県で九州で噴火した火山の火山灰が見つかっており(町田,1977),これはほぼ九州〜本州全土を覆うくらいの範囲で,地層中に同じ時間を認定することが出来る事を示している.しかし,すべての火山灰にそれが適用されるわけではなく,火山の噴火の規模や当時の風向きなどに左右され,もっと狭い範囲にしか見つからないものも多数存在する.先ほどの例は,今まで見つかっている火山灰の中でも非常に広い範囲で見つかる代表的な例と言える.
 このように非常に広域に同じ火山灰を見つけること(対比)が出来るが,いろんな場所で対比される事によって,拡がった範囲がわかるため,対比する前段階では分布がわかっていない.そのためなれた場所の火山灰を対比するためには,様々な方法でそれぞれの火山灰の個性をだし,対比を慎重に行う必要がある.
 古琵琶湖層の中には多くの火山灰があるが,これらのうち,大阪地域との対比ができたものでさえ,10%もない(里口ほか,1999).まだこれから検討のよちがある.
 火山灰を広域に対比することは,地層の時代を知ることにもなる.たとえば,古琵琶湖層はある程度の年代がわかっているので,ボーリング調査をしたときに,そのボーリングに火山灰がでてくれば,いままで見つかっている古琵琶湖層のどの火山灰かを検討して,ボーリングの地層の年代を知ることが出来る.また,年代がよく調べられた地層の火山灰と年代のよくわからない地層の火山灰とを対比する事が出来れば,その地層の年代がわかる.古琵琶湖層の時代(鮮新−更新世)の地層で最も精度よく年代が調べられているのは,房総半島にある(上総層群,三浦層群).古琵琶湖層も比較的よく調べれている地層であるが,一番古い時代あたりの地層はまだよくわかっていなかったり,全体の精度としては,房総半島の地層よりも良くない.つまり,古琵琶湖層の火山灰と房総半島の火山灰を広域に対比すれば,古琵琶湖層の年代はより精度がよくなる.いくつかは対比されているが,まだまだこれからである.

「火山灰が地層中にあるもう一つの意味」
 火山灰は,火山の爆発的な噴火で出てきたものであるので,溶岩などと同じ物質で出来ており,塊でなく,岩石の粉々になっているだけである.火山が噴出しているものは,火山の地下にある岩石が高温のために溶けている「マグマ」というもので,噴火の仕方や爆発度合いによって,流れ出るか,粉々になるかという噴出の形態が異なる.従って,火山灰の構成物質は,噴出もとの火山のマグマが冷えて固まったものである.マグマはゆっくり冷えて固まると,そのほとんどは鉱物になる.逆に,火山噴火でマグマが地表に出てくると,急激に冷やされるため鉱物には成らない.火山灰は,火山の爆発的噴火でマグマが噴出し,急冷されたものであるため,火山灰を構成しているものの大部分は「火山ガラス」とよばれる物質で出来ている.また,噴火する前にマグマの中で出来ていた鉱物も入っている.
図3 従って,火山灰の個性を調べる,ということは,対比をするという意味以外に,火山灰を噴出した火山のマグマの性質を調べることにもなる.特に,火山灰の火山ガラスは,噴出時にマグマが急冷されたものである事から,元々のマグマの性質を保存している.また,構成鉱物も噴火前のマグマの性質や特徴を表している.  火山噴火により噴出された火山灰が地層中にある事は,その当時に火山噴火があった,という事を示しており,その火山灰を調べることは,過去の火山噴火活動を調べている事とも言える.古琵琶湖層や現在の琵琶湖の湖底に多くの火山灰が存在することは,昔の琵琶湖が過去の火山噴火活動を記録してきた結果によるものとも言える.さらに,古琵琶湖層を下から上へ火山灰を調べることは,この地域に火山灰を降らした日本の火山噴火活動の変遷を知る手がかりになる.
 しかし,難しいことに,火山灰には数100kmも離れた火山から飛んでくるものも多く,特に日本には非常に多くの火山が存在するため,古琵琶湖層の火山灰がどこから飛んできたのか?を知らなければ,噴火活動を正確に把握する事には成らない.そこで,広域に同じ火山灰を見つける事も別の意味を持ってくる.広域に同じ火山灰を見つけていくことは,分布範囲や分布の中心を知ることにつながるため,噴出した火山の推定,火山噴火の規模や噴火の方向などを知る手がかりになる.
 このように地層中の火山灰の研究は,地層の分布や層序を調べるだけでなく,過去の日本の火山噴火活動を知ることにつながっていく.特に古い時代の火山噴火は,火山自体が削剥されたり,新しい噴火活動によって覆われたりするなどの可能性が高く,過去の火山活動を火山から調べる事が難しく,古い時代の火山噴火活動を知るためには火山灰からのアプローチが期待される.

「文献」
琵琶湖自然史研究会(1994)琵琶湖の自然史.八坂書房,p340.
町田洋・新井房夫(1976)広域に分布する火山灰−姶良Tn火山灰の発見とその意義−.科学,46,339-347.
里口保文・長橋良隆・黒川勝己・吉川周作(1999)本州中央部に分布する鮮新−下部更新統の火山灰層序.地球科学,53,275-290.



(c)satoguchi

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