第3回:地層の出来る場所と地層の関係
ものが堆積する環境を考える
地層中にある火山灰の意味の最後のあたりで,火山灰がどのように地層に取り込まれたのか?を知るためには,地層がどのような環境でどのような地層ができるのか?を知る必要があると述べました.では,地層を調べることによって,地層が出来た環境がわかるのでしょうか?
地層が出来るイメージの話は一番はじめにしました.地層はイメージとして下から順番にたまり(堆積(「堆積」は砂や泥がたまって地層をつくることを言います.その時,砂や泥などを総称して「堆積物」と言います)),その地層の積み重なりは時間の経過を表すといいました.地層が出来るのは,ものが堆積する環境にあるという事です.ものが堆積するには,どこかから砂や泥が供給され,それが運ばれ,とどまって堆積するという事が必要です.また,現在の環境を見渡してみても,山,平野,川,湖,沼,湿地など様々な環境が考えられます.そのうち,山などはどんどん削られ,また成長過程にある山などは隆起していますから,隆起するにつれてどんどん削られていきます.削られるのは,雨風にさらされて「風化」したり,川の流れで削られたりするためです.山が削られるということから,山の中の川などで,砂や大きな石がたまっている事がありますが,これは一時堆積しているだけで,山が隆起する過程で削られます.また,隆起しなくても周りより高いわけですから多くは削られます.削られたところはどこへ行くのでしょう?より低い場所へ運ばれます.運ばれるのは,普通は川(水)で運ばれます.川などでも中州や,川の周りの河原などにものがたまっていることが見られます.そういう所にも地層は作られます.そう言うところは地層として残るのでしょうか?まだより低いところがあると地層として残らないのでしょうか?しかし,今の琵琶湖の標高は数十メートルありますが,地層が残っています.地層が残るためには,堆積したものが,さらに上にたまるか,削られないで地層として残る必要があります(海の中でも削られて地層が残らない場合もありますから,標高の関係よりも,地層として残る事が重要です.ただし,低い場所や水のたまっている場所(たとえば湖)等の方が地層は残りやすいです).逆に言えば,削られないで残ると標高の高い所でも地層が残ると言えます.地層から過去のことを推測することは出来るのですが,地層が残っていないと過去を推測することが出来ません.そのあたりが難しいところです.だからこそ,残されている地層を丁寧に観察して,出来るだけ多くの情報を得ようと言うのです.
話はそれましたが,ともかく堆積物が運搬されて(動かされ),どこかでたまって,地層ができます.地層の出来る場所は,多くは水の関係する場所で,川やその周辺,湖,沼,湿地が考えられます(他には海).これらのうち川でも川の河道と河原部分では出来る地層が違いますし,河道であっても,水の流れる強さで異なります.つまり,地層からたまった環境を推測するにしても,より多様な環境があり,それらを推測することが必要です.それを考える分野を「堆積学」といいます.では,堆積学的な見方というのはどのように地層を見るのでしょうか?
堆積物が運搬されるということ
ものが動くためには,それが動くだけの力が必要です.地層が出来るためにはものがたまらないといけないのですが,それは運ばれてこなければ多くの場合たまることは出来ません.この場合運ぶのは多くの場合,水であることが多いです(風でも可能です).ただし,水であろうが何であろうが,どのような大きさのものを運べるかというのは,その運ぶ力の強さで決まります.この場合水流の強さですが,より水流の強いほど,大きなものを運ぶことが出来,水流が弱いほど小さなものしか運べません.堆積物が運ばれて,堆積するのは,ある強さの流れで運ばれ,水流の弱くなって運べなくなった場所にものをためていきます.
泥などは弱い力で流れてきますが,ほとんど水の流れがないところでたまることが多いです.たとえば,湖や沼の様な環境です.他に川の周りの湿地などが考えられます.大きな石ころ(礫)等はより大きな力が必要で,河原などに見られる石ころは洪水の時に流されてきたものと考えられます.ここでは主に砂で出来る地層について考えることにしましょう.
図を見て下さい.これは水の流れで出来る砂の形を模式化したものです.この図はそれをよこ断面で見ています.この形は水の流れではじめは平らでも次第に自然にこうなるのです.その形や大きさはその時の水流の強さや砂粒の大きさや流れの状態で変化しますが,基本的にはこの形です.水の流れの向きは左から右へ流れていきます.これについてはA展示室の研究室に,水路実験の装置があるのでそちらをみてイメージして下さい.
どうして平らな面が自然にこのような形になるか,詳しいことは抜きにして,砂粒は粒ですから,いくら上面を平坦にしてもでこぼこが出来ます.そう言うところが削られたりして,場所によって水流の強さなどが変わったり水流の状態が変わったりして,でこぼこがさらに大きくなってきます.水は左から流れていますので,凸になっている部分は左側から流れる力で砂が動かされます.つまり左から右へ行こうとします.右へ動かされていくと山の頂上から右側の斜面を下ります.凸の右側は流れの下流側で壁に阻まれて遅くなっているので,左側にあったほども流されません.そうすると,左から右へ砂が流されていくという現象が起きます.左側は水に攻撃されて削られるので緩やかな斜面です.左側は自然に下るので急な斜面を作っていると言うわけです.これが基本になっています.
図はもう少し述べている事があります.山の中身は斜め線のようなものが見えています.これが水の流れで出来る地層の模様です.これは「斜交葉理」と言います.ですから,この模様を見るとその地層は相対的に左から右へ流れたという事がわかります.この場所で常に砂が流れてくるような場所だと,この地層の模様は保存されるので,地層からその地層を作った流れの方向がわかります.
砂が流されて出来る地層
上の図のような形は,A展示室の実験水路でもみられます.このような水の流れでできる形や模様は,もっといろいろとあります.たとえば,山の形を上から見ると,山が一直線になっているものや,曲がりくねっているものなど様々です.また,流れてたまった砂を断面でみると,いろいろな模様ができるのですが,水の流れに対して,正面から見るのと,横断面でみるのとでは,見える模様が異なっています.たとえば,A展示室自然史研究室の中の地層模型の断面は鱗のような模様が見えています.この模様は「トラフ型斜交葉理」といって,山が曲がりくねったこの図のようにして地層が出来ます.このように,地層の模様を見るときは一方向の断面から見ていては,本当の模様がよくわかりません.ですから,2つの方向から見ることが大事です.
上の説明は一方向から来る流れで出来る模様の説明でした.主に海でみられる波でも地層の模様はできます.波は流れている様に見かけ上見えていますが,実際にはその場で水は円運動をしています.水の底では,行ったり来たりする往復運動をしています.ですから,堆積物は一方向の流れとは全く違う挙動をするはずです.そうして出来る地層は,川など一方向の流れでできる地層とは異なっています.外見は山が対象をなす形をしています.古琵琶湖層でも,広くて深い湖を作っていた甲賀湖の時代の地層中にこの形の地層を見ることが出来ます.これを見つけると,そこには波があったことがわかります.ちなみに波が出来るのは風の作用ですが,ある程度の広さがなければ波は出来ません.沼のような大きさでは出来ないのです.ですから甲賀湖が比較的大きな湖だったということの証拠にもなるわけです.
今まで述べてきた一方向の流れや波で出来る地層の模様や形は,「リップル」と言います.地層中にある模様から,流れてきた方向や水の流れの強さを知ることが出来ます.
さらに,砂に石ころが転がってきた時に出来る痕跡が地層に残されることがあります.こうやって石ころが転がってきてどのように地面を引っかいていったか?等もわかるのです.ここからは少なくとも,石ころが流れているような流れだったという事がわかります.また,その形から石ころの転がってきた方向,つまり流れの方向がわかります.
地層の出来る環境は?
地層に見える模様から流れの強さや方向がわかるだけで環境はわからないじゃないか?と思われたかもしれません.しかし,今まで述べたのは,そういう条件で地層の模様などが出来るという基礎の部分です.じゃぁどんな地層だったら,こんな環境だといえるのでしょうか?それは多種多様にあるのですが,まず,現在どのような場所でどのような地層が出来つつあるかを研究することによってわかります.ここでは川を例に取ります.
写真は曲がりくねった川の写真です.写真はちょっとわかりにくいですが,流れの内側には砂がたまっています.この写真はA展示室にある模型です.曲がりくねった川といってもいろいろな環境があります.川の本体以外に,川からあふれでた堤防決壊堆積物.三日月湖,自然堤防,周辺の氾濫原など.これらは出来る地層が全部違っています.ですが,この見かけの地層だから,これは〜〜の環境だという事は少し安易で,地層の積み重なり方からも考えなければいけません.たとえば,蛇行河川の特徴を知らなければ,推測した環境に矛盾が出来ます.たとえば,川の本流のすぐ後に湿地が出来ることなどあるか?などを考えることも必要です.では,蛇行河川の特徴とは何でしょう.曲がりくねっているという事に特徴があるはずです.川が曲がっていても水は常にまっすぐ流れようとします.それを地形的に曲がっているので水の流れも無理に曲げられてしまいます.曲がっている外側へ水は流れようとするので,曲がりの外側は攻撃斜面となって,削られていきます.逆に内側は水の流れが弱くなるので,それまで運ばれてきた砂などをためていきます.つまり,蛇行河川とは,曲がっている外側へ外側へと川の本流を変えていき,どんどん曲がりくねってくると言うことです.つまり,川が曲がりの部分で外側へ移動していくという事になります.従って,曲がりの内側へ地層を作りながら移動していくということです.
曲がりの部分の水流を考えると,外側ほど早く,内側ほど遅いという事になります.これを先ほどの砂の模様や形から考えると,水流が弱いほどリップルの形は小さくなります.だからまがりの内側ほど小さなリップルになります.地層が出来てから見えるのは下部分に大きな石ころや砂,上に行くに従って砂粒が小さくなり,模様も小さいものになっていくというものです.これは川の内側に行くほど水深が浅くなり,水流が弱くなることと関係があります.つまり浅いほど水流が弱くて,小さなリップルが出来るので,地層の上の方は小さなリップルで,下の方ほど大きな模様が出来ていることになるからです.この後はどうなるのでしょうか?川はどんどん外側へ移動していくので,一つの地点を見ているとその場所は川の内側に環境が変わっていくことになります.そうすると川から離れて,川の周りの湿地の環境に変わってきます.そうすると,湿地の環境は泥がたまるので,地層は泥が出来ます.つまり蛇行河川で出来る地層は,粒の大きなものから上へ細かくなり,出来る模様も小さなものになっていき,そのうえには泥がある,という様な地層が出来るはずです.この地層はA展示室の研究室の地層のはぎ取り標本でも見られます.見て下さい.
我々が野外の崖で地層を見るときは,昔の地層ができて残されたという環境の一部分だけを見ることになります.ですから,たとえば,蛇行河川の本流部分を見ているかもしれません.ですから,その崖からはその場所がどのような堆積場にあったのか?また,その崖の地層に変化があれば,時間とともにその場所がどのような堆積場の変化があったのか?という事しかわかりません.ですから,はじめの方に出てきた地層の調査を行って,地層の平面的な広がりを知ることが大事になってくるのです.
砂の話ばかりしましたので,泥の話しもしましょう.泥は水の流れのあまりないところで出来ます.たとえば湖とか.そう言うところで泥はたまるのですが,泥の正体は砂のような砕屑物(岩石が砕けて出来たもの)だけではなく,生物の排泄物など生物起源のものもあります.泥には時折,なにか縞模様のようなものが見えています.この縞模様は水の流れで出来る縞模様とは違って,流れのほとんどないところで出来たものです.正体は珪藻と呼ばれる微生物の多い所と少ない所の違いなんですが,実はこの縞模様はある周期を示しているのです.地球にはいろんな周期があります.地球の回転周期やその他の物理条件や大洋の活動周期などです.そういうものが生物だけではなくて,地層にも影響を与えているというのです.そういう研究は多くなされて,地球上に見られる周期が地層に刻まれていることが多くあるという事がわかってきました.そういうものは動きの激しい砂がたまるような場所では出来なくて,湖など静かに水がたまるところでないとダメなようです.
終わりにかえて
「地層と火山灰」という漠然とした題名でしたが,地層のことについて少しわかっていただけましたでしょうか?私の研究の専門は火山灰ということから,その入れ物である地層の話と火山灰を噴出する火山の話をしてきました.これらは全く関係のないもののように思えるのですが,実はこういう部分でつながっていました.また,地層そのものの研究からもいろんな事がわかるんだなぁと思って頂けたら幸いです.地学や地層の研究というとどうしても,化石や鉱物というイメージが強いと思います.特に地層というと化石が目立ちますし,昔生きていた生き物のことを目で見てわかるという事に魅力があることもわかります.だけど,それを保存している入れ物である地層も,それ自身を研究することで,昔の環境はどんなものだったのか?という思いを巡らしたりできる,魅力あるものだと思います.特に,古琵琶湖層には,ゾウやシカをはじめとするいろんな動物の足跡化石が出てきます.そのような足跡はどんな場所でつけられたのか?という事が地層の研究からわかります.そうすると,それらの動物が歩いていた場所のイメージがつきやすくなるはずです.またどんな所に住んでいたのか?などまで発展してくると思います.地層そのものだけを研究するというわけではなく,化石やいろんなものと関係しているという点でも重要なのだと思います.
みなさんも,もし地層に興味がわいてくれば一緒に勉強しましょう.
参考文献
(第1回)
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(第2回)
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(第3回)
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(c)satoguchi
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