琵琶湖博物館入門講座「環境史入門講座」その2-2

「実験でわかる災害の仕組み」

担当:里口(地質学)

(講座について)
 この講座はもともと2002年度の講座として行う予定でしたが,参加希望者がなく(内部の人で参加したいという人はいましたが)中止になった企画でして,それを2003年度の講座として復活したものです.この講座は,この災害実験だけではなく,2週連続の講座として,一回につき2つの講座を組み合わせたものでした.ちなみに災害実験は「街路樹でみる大昔の植物」と同じ日に行われました.それにしても,今回は他の人とセットだったので参加者も結構いましたが,どうして私が担当する講座や観察会には参加者が少ないのでしょうね...


「はじめに」

 日本列島の地球上の位置というのは、中国のあるユーラシア大陸の東側にある島々なのですが、プレートテクトニクス論から考えると、プレート境界付近にあって、火山が多く、地形的にも非常に起伏に富んだ場所となっています。このような場所は、地震や火山噴火、地滑り、洪水等のようないわゆる自然災害というものを起こしやすいです。
 私たちが住んでいる場所が、世界中でもそういった自然災害を起こしやすい場所にあるということを、意外に私たちは知らないように思います。ましてや、そういった自然災害がどのようにして起こるのか?ということについては、ほとんど知られていない、というようにも思います。
 といっても、自然災害は地質学的に見れば頻繁に起こる現象であっても、私たちの時間で考えればそれほど頻繁にあるわけではありません。また、自然災害の規模があまりに大きくて、仮に被害に遭ったとしても、それがどういうもので、どのように起きるのかを身の丈で感じる事は難しいので、そういった自然災害について理解を深めることが難しいと思います。
 この講座では、日本で起きる自然災害のうちのいくつかを例にとって、それらがどのようにして起きるのか?を簡単な実験から学ぼうというものです。実験に使う道具などは、比較的身近にあるものを使うので、ここで行った実験を家で行うということもできるかと思います。


「災害と自然現象」

 災害というのは、人間にとっての害はどうか?という物差しがあるので、災害をおこす自然現象の規模が大きくなると災害の規模が大きくなる可能性も大きくなりますが、
 必ずしも、“自然現象の大きさ=災害の大きさ”、にはなりません。
 たとえば、雲仙普賢岳の噴火は、火山噴火としてはそれほど大規模ではなかったとされますが、普賢岳の周りには多くの人々が住んでおり、そういった方々に対して非常に大きな被害をもたらし、災害の規模としてはかなり大きくなりました。地震についても、人口集中地帯で起きた阪神淡路大震災は、災害としての規模が大きかったですが、もし同じ規模の地震が、人の住んでいないところでおきても、災害規模としてはきっと小さいはずです。ですから、災害の仕組み、と言った場合、実際には、自然災害を起こす自然現象の仕組み、と、自然現象によってどのように災害がおきるか?については分けて考える必要があるでしょう。この講座では、自然現象の仕組みを学ぼうというものですから、正確に言うと災害をおこす自然現象の仕組みというタイトルがふさわしいかもしれません。


「火山噴火」

 日本は、火山が集まっているところとそうでないところはあるものの火山列島で、たくさんの火山があります。滋賀県は、前述の‘そうでないところ’にあたりますが、火山噴火で噴出した火山灰は、琵琶湖の底にもたまっています。こういった火山灰の存在は、過去に琵琶湖周辺に火山があったことを示しているのではありません。これらのいくつかは、九州から来ているものもあり、それが非常に爆発的な噴火を起こしたという事は何となくわかるでしょう。
 火山の噴火は、かなりおおざっぱに分けると、どろどろと流れる溶岩を噴出するものと、粉状の噴煙になる火山灰を噴出するものがあります。日本には火山灰を噴出するタイプの火山が多く、このタイプの方が溶岩噴出よりも爆発的と言えます。しかし、溶岩を噴出する火山も、火山灰を噴出する火山も、噴出するものは火山の地下にある岩石が高温のために融けた‘マグマ’です。ですから溶岩でも火山灰でも元はマグマなのですが、噴火の仕方の違いで、溶岩や火山灰になります。これは、溶岩を噴出する噴火よりも、火山灰を噴出する噴火の方が爆発的であるために、マグマがちりぢり粉々になるため、粉状の火山灰を吹き出します。それに対して、溶岩は火山灰のように粉々にならないで、どろどろの状態で流れ出ているのです。
 この実験では、その違いを観察します。
 火山の噴火は、マグマにとけ込んでいる火山ガスが、何かのきっかけで気体になり泡を作ります。その時、マグマ全体の体積は火山ガスが気泡になった分大きくなり、大きくなった分は、どこか隙間、多くの場合噴火口につながる火道と呼ばれる所を見付けてマグマが昇っていき、最終的に地表へ出ます。噴火の仕方の違いは、このときのマグマの上昇速度などによります。

図1
図1 火山噴火と炭酸水.厳密には2つの噴出の仕方は異なっている
(実験)

(災害について)
 火山噴火については、日本のように火山灰を噴出する爆発的な噴火をするタイプは、局地的な災害では収まりません。例えば、火山が近くにない滋賀県でも、その規模おおきければ影響を受けます。たとえば、24000年くらい前に噴火した姶良カルデラの噴火では、琵琶湖の底に5cm程度の火山灰を積もらせました。たった5cmか、とお思いかもしれませんが、このようなものが至る所に降って積もります。床面積が75m2くらい(6畳*3、13畳、台所・風呂・トイレなどの3LDKとすると)の家などは、約6トンくらい積もり、これは大型のゾウ1頭分くらい。車では、ぎりぎり3ナンバーにならないくらいの乗用車だと元関取の小錦さんで2〜3人くらいが屋根に載ることになります。雪に換算し直すと、ちょっとおおざっぱですが、だいたい55cmくらいがつもった感じでしょうか。降ってくる火山灰だけでこんな感じです。これがすべての所に積もるわけです。また、火山灰は雪のように融けてくれませんが、非常に動きやすい状態で山の斜面や河原にもたまっていて、大雨でもくると大変な土石流を起こす危険性もあります。また、火山灰は非常に細かいものも噴出しており、それが太陽光線を遮って、地球が寒冷化すると言われています。そのために、作物が不作になるなど別の被害も考えられます。
 もっとも、このような大規模な噴火は、そう頻繁にあることではなく、日本でこれくらいの規模で噴火したのは約6400年くらい前とされています。ただし、頻度は少ないですが、日本にはこういった大規模な火山噴火を起こす火山が確実にあるというのは事実です。


「断層」

 地震が起きると多くの場合、断層生じます。実際には、断層が動くときに地震が起きると考える方がよいかもしれません。地震は、岩盤などの地面に大きな力が加わることによって、地面がその力に耐えきれなくなった時に地面が破壊されます。その破壊が地震をおこしますが、岩盤などが破壊されているわけですから、ひび割れなどの裂け目ができ、それが断層になります。ただし、地下の深いところで断層ができると、地表にまで現れないものもあるようなので、必ずしも私たちの目に見える形で断層ができるという訳でもないようです。ともかく、そのように断層が一度できてしまうと、その地域に大きな力が加わり続けていると、一度ずれてしまった断層がそういった力に耐えられない場所として定着し、そこが動きやすい断層となり、直下型地震を引き起こします。そういう断層が活断層になります。

図2
図2 正断層(上)と逆断層(下)
(実験)

(災害について)
 地震でおきる災害は、よく知られていると思います。地震そのものでは、建物などの倒壊や、それに伴って水道や電気などのライフラインがストップしたり、崖は地滑りをおこすなどがおこります。それ以外には、地震によって起きる火災が、地震そのものよりも大きな被害をもたらすようです。地震の時には、火の元を止めるというのは、そういったことから言われています。
 地震の時に建物が倒壊するなどの被害については、その場所の地盤がどのような地盤であるか?が重要な要素になるようです。次に実験する‘噴砂現象’は、地盤の液状化に伴うものです。

これは私が予備的に実験したときの写真です.この実験ではいかにうまく層を作るかというのですね.これは正断層ですが,うまい具合に両側を押していくと逆断層も作れます.

「噴砂現象」

 噴砂現象は、多くは地震の時に弱い地盤のところにできた割れ目から砂が吹き出すという現象です。これは、液状化、という現象と関係しています。液状化は、水を含んだ砂の層が、地震などの揺れが起きることによって、より安定した状態、つまりより密に詰まった状態になろうとする現象です。そうすると、砂は下へ、間にあった水はじゃまになり、排除されます。その時砂と水がうまく2層に分かれるという訳ではなく、その砂の層の上には地層があったり、地面にはアスファルトがあったり、さらに建物がのっていたりしますので、上から圧力が加わっている状態にあるので、砂の層から邪魔者にされた水は、その上の地層などの割れ目を見付けて、外へ抜けようとします。その時水流ができるために、砂の層の砂まで水と一緒に上へ抜けていきます。そうやって地上まで、水と砂が一緒に出てくるという現象が‘噴砂’です。

図3
図3 揺すられることで粒子は隙間を詰めようとする.そのため水はどこかへ抜け出そうとする

(実験)

(災害について)
 噴砂、液状化は先に述べたように、主に地震の時におき、地震の災害は断層の所でも述べたように様々な被害をもたらします。そのうち、噴砂や液状化は、堆積してから時間がたっていない砂の層や人工的に作られた地層(埋め立て地など)でおこりやすいです。液状化がどのようにしておきるか?を考えれば、堆積して時間がたっていないところや埋め立て地などは、地盤としてしまっていないので、地震などで揺すられるとどうなるか?はなんとなく予想がつくと思います。阪神淡路大震災の時に、建物の倒壊が、旧河川やため池などの埋め立て地、人工島に多かったという事実はそれを物語っています。このことを考えると地震自体は自然災害ですが、このような現象は人が関与している災害と考えることもできます。

これは私が予備的に実験したときの写真です.左側は上から写真を撮っています.実際の噴砂と同じような感じに見えます.右側は壁側に隙間をあけておいたもので,これだと噴砂の断面やあがってくる様子を観察できます.

「土石流」

 土石流は、大雨などによる洪水に伴っておこります。日本の地形は非常に起伏に富んでいるために、鉄砲水などが起こりやすい環境にあります。ただ、こういった洪水が起こったときには、単に水だけが流れてくるという事はほとんどなく、水の流れの速さと流れる規模の大きさのために、山などを崩しながら土砂を取り込み、時には森林の木なども一緒に流してしまいます。水の流れそのものが速いために、土砂が流されているということもありますが、水の中で砂等は流動化して流れているため、水や土砂が一緒になって流れ落ちているというイメージがあっているのかもしれません。

(実験)

(災害について)
 土石流の災害は、地震や火山噴火と違ってより頻繁におこっています。特に、日本は地形的に起こりやすいだけではなくて、毎年台風が来るなど、大雨になりやすい季節を持っていることも関係しています。また、地震などのために地盤が崩れやすくなったり、火山噴火によって火山灰が積もっていたりする事によって、より起こりやすくなります。
 土石流のような流れは、非常に大きな石や自動車なども簡単に流してしまうほどの威力があります。水にその力があるのと同時に、水の流れの中で、土砂なども流動するので、こういったものがよりその力を巨大にしています。また、土砂を大量に運ぶため、流れが弱くなると一緒に流していた土砂を一度にためるため、土石流が弱まった場所では、土砂で埋められるなどの被害もあります。


「おわりに」

 今回いくつかの実験をおこなったことで、自然災害をおこす現象がどのようなものかのイメージはついたでしょうか?自然の営みは非常に大規模なので、ちいさな実験を行ったくらいではよくわからないかもしれません。写真やビデオなどで実際におこった映像を見ることでよりイメージが進むのかもしれません。
 自然が起こす災害は、はじめにでも述べたように、人の活動が活発化し、活動の場を広げていく事とも関係しています。地震や火山噴火を止めたり防ぐことはできないですし、その規模を小さくすることも難しいでしょう。ですから、自治体や国がある程度防災について何らかの対策をすることは当然としても、すべて何とかしてくれて、自分たちは安全、ということはないでしょう。また、自分たちは今までこのような自然災害で大きな災害を受けていなかったとしても、いつ受けてもおかしくないほど日本はそういう災害をおこしやすい土地柄です。ですから、そのことについて正しく知り、何か対策できることは自分で自分の身を守れるようになりたいものです。
 今回は、自然がおこす災害についての話をしましたが、このような現象がおきることによって、私たちは恩恵も受けています。たとえば、火山があることによって、その地域は観光名所として成り立ったり、美しい火山の風景を楽しんだり、温泉を楽しんだりできます。また、火山灰は雨風にさらされて泥化すると、肥沃な土地となり、農業に適した土地となります(関東ロームなど)。地震がおきることによって起伏ととんだ土地になり、山ができ、また、湖ができます。土石流や洪水による川の氾濫は土砂を運び、私たちの多くが住んでいる扇状地や平野を作りました。このことは、もともと私たちは土石流や川の氾濫がおこりやすい土地に住んでいると言い換えてもいいのかもしれませんが、私たちが住みやすい場所を作ってくれたものとしても考えることができます。自然は、時には大きな力となって私たちに災害をおこしますが、それらが与えてくれる恩恵の部分も忘れてはいけないと思います。そのことを知った上で自然とうまくつきあっていくことが大事なのかもしれません。


「もっと詳しく知りたい方へ(参考図書)」
  • 宇井忠英 編著(1997)火山噴火と災害.東京大学出版会,p219.
  • 下鶴大輔(2000)火山のはなし−災害軽減に向けて.朝倉書店,p166.
  • 伊藤和明(2002)地震と噴火の日本史.岩波新書(798),p212.
  • 松田時彦(1995)活断層.岩波新書(423),p242.
  • 池谷浩(1999)土石流災害.岩波新書(640),p221.



(c)satoguchi

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