「地層から昔の環境や出来事をさぐる」

 この講座は,前年度に行われた琵琶湖博物館開館5周年記念連続講座「湖と人間」をうけ,今後も連続講座を続けていくとした,ものです.ただし,今後は前回のアンケートに,一つ一つの話をもう少しゆっくりと聞きたい,という要望が多かったので,あるカテゴリーでくくったいくつかの分野を連続的におこない,毎回は一人の学芸員がお話をする,という形を取りました.
 里口は,2002年度の第一回目(2002年6月2日(日))で話をしました.
 60人くらいの方が出席されていてびっくりしました.私の単独の講座ではこれほど集まることがありませんので.アンケートには厳しいご意見もありましたが,皆さんよく聞いていてくださるのだなぁとありがたく思いました.アンケートに書いていただいた意見を元に,自分の講座の方法などについてもっと勉強したいと思います.
 下にその講座の要旨を載せます.



(要旨)

「地層を調べることの意味」
 地層は、ある場所で、なんらかの自然現象によって作られている。たとえば、今の河原に落ちている石ころは、川の流れによって上流から運ばれてきたものなので、それらが地層として残されると、その地層自体は、川という場所で、石を川が運ぶという自然現象を経て、地層になったという製作過程を経ている。そのようにして地層は過去から現在まで、またこれからも作り続けられているが、地層になるための製作過程の情報を含んでいる。従って作られた地層を調べる事は、過去にその場所がどのような場所で、どのような事が起きてきたのか?などを知ることにつながる。
 地層自体は、刻々と移り変わる環境の中で作られていく訳なので、地層の積み重なりは過去のある時の環境を示すだけではなく、移り変わっていく様子、つまり時間の経過とともに変化していく環境を記録している。そういった長い時間の流れの中ですこしずつ変化していく様子は、人間の一生の中でほんのわずかしか変化していない様子からは想像がつかない大規模な自然の営みを教えてくれる。また、長い時間の流れの中で、突発的に起きる現象(たとえば地震や火山噴火、地滑りなど)も記録されている。このような突発的に起きる現象は、それを目の当たりにした人間はひどい目に遭うが、ほとんどの場合忘れられていきがちで、なおかつ人がいない時代のことは地層以外にはその記録を見いだす以外には方法がない。
 そういった長い時間の流れの中で変化していく環境と、突発的に起きている(それが周期的に行われているかもしれない)現象を、地層から調べようとする事ができる。それらを知るためには、地層の見方を知る必要がある。特に、地層の重なっている順序(「層序」という)を理解する必要がある。

「地層の基本」
 地層を理解する上で、基本となる非常に重要な法則が3つある。
 ・水平堆積の法則:基本的には地層は水平にできる
 ・地層累重の法則:地層は下から上へと重なってできる
 ・切った切られたの関係の法則:切られた地層側の方が先にできた
 水平堆積の法則は、読んで字のごとく、基本的には地層が水平にできることを示している。地層が水平にできることは、アメリカのグランドキャニオンなどの写真を見ると何となく納得できる。ある一定の広がりをもち、地層の傾きがなければ(つまり地層ができた当時から変化がなければ)同じ高さには同じ時にできた地層がある、というのである。そのことは、傾いた地層にも応用でき、地層の傾き方を知ることで地層の広がりを考えることができる。しかし、必ずしも地層が水平にできるという訳ではない。たとえば、三角州の水たまり側に地層ができるときなどは、水平にはたまらず、どちらかというと斜面に平行にたまる。従って、水平というよりは、地層が平面的な広がりをもってできると考えるべきかもしれない。

図1
図1 3つの法則

 地層累重の法則は、地層が下から上へと順に積もってできることを述べている。累重とは、つぎつぎに重なっていくことを意味している。モノがたまる、たとえば雪が降ってくることを想像すると、下から上へと順に積もっていく様子が分かる。これは地層も同じであり、地層も当然のことながら下から上へと順にできていく。このことは、地層の下側の方が上側よりも昔にできたということを意味し、地層を下から上へと順に見ていくことは、昔から現在へ近づいていく時間の経過を見ていくこととも言える。
 切った切られたの関係の法則は、法則名としてはあまりよくないが、地層のできる順序を考える上で重要である。この法則は、切られている地層は、その地層を切っている地層ができるよりも以前にできた、ということを述べている。たとえば、ある地層Aに断層Fがあると、地層Aができた後に断層ができたのであるが、地層Aの上には断層Fが続いていない地層Bがあるとすると、地層Aの後に断層Fができ、その後に地層Bができたことがわかる。
 これらの法則は、ステノの原理とも呼ばれ、古典的原理の一つであり、17世紀にはできあがっていた。

「地層の層序と広がりを調べる」
図2
図2 崖が離れても,
 地層はつながっている

 地層の層序と広がりを調べるためには、広範囲に地質調査をし、それぞれの地質の分布と重なりを理解する。このとき、地表に点在している崖のそれぞれで地層を調べ、離れた崖に存在する地層の層序関係を検討していく。そういった崖にみられる地層は、崖の大きさ分だけで地層が出来たわけではなく、元々はある一定の広がりをもってできたはずで、離れた場所に点々とある崖にみえる地層ももともとは重なっていたり、同じ地層であったりしていた(図2)。これらがどのようにつながっているのかは、地層のある高さや傾き加減などから推定し、観察した泥や砂など地層の見かけを参考にして、検討することが出来る。
 このような検討を行う場合、どこまででも同じ見かけの地層が広がっている訳ではないことを考慮に入れる必要がある。現在の環境を見渡すと、湖や川、湿地など同時期に様々な環境が存在している。これらの環境は、それぞれに特徴をもった地層ができるため、同時期に作られた地層であっても、平面的な広がりをみると、異なった地層へと移り変わっている。このことは、崖に存在する地層を広範囲に見る場合、違った地層と認識し、層序として、同じ平面(同時間)としてとらえられない可能性がある。広範囲に、離れた場所にある地層の同じ時間(つまり同時代に出来た地層)を探すためには、離れている場所のどちらでも同じ時間にある事件がおこり、その事件が地層中に保存され、なおかつ、それが同じもの、または同時間におこった、ということが検証できればよいのである。それが、地層中にある火山灰である(化石帯や古地磁気でも可能)。

「火山灰で地層の同時間を調べる」
 火山灰は火山の爆発的な噴火で噴出したものである。今でも鹿児島県へ行くと桜島が噴煙を上げることがあるが、噴煙はほとんどが火山灰と火山ガスでできている。
 爆発的な噴火をした火山灰が噴出すると、空中にまきあげられ、風などで運ばれ、もうこれ以上飛ばないという所で落ちてくる。そうやって降灰した火山灰は降り積もり、地層中に保存される。このような一連の動きをまとめると、火山の噴火はある時突然おこり、広範囲にわたって、場所の環境にあまり関係なく火山灰は降灰する。しかも、火山灰は火山から噴出したものなので、砂や泥などとは異なっており、地層中に見つけやすく、火山灰によって成分や構成物質が異なっているので、同じ火山灰を認定する事が出来る。このことは、先に述べた、地層の同時間を調べるものとしての条件を備えている。
 昔の琵琶湖が作った古琵琶湖層の中にも多くの火山灰があり、古琵琶湖層の全体像(どれくらいの厚さで、どのように分布し、どのように重なっているか、など)を知る上で重要な役割を果たしてきた。地質調査をする時、地層の傾きなどからある程度地層の広がりや重なりを推定し、層序を検討する。そこでは火山灰が一つの目盛りのような役割を果たし、火山灰を基準にして地層の層序関係(上下)を検討する。
 しかし、古琵琶湖層だけでも火山灰は130以上あり、見かけの似た火山灰も多いため、同じ火山灰かどうかを見分けるには、それぞれの火山灰の個性を知る必要がある。火山灰の個性は、地層中の岩相(見かけ)、火山灰の性質、火山灰の大部分を構成する「火山ガラス」の色・形、化学成分、屈折率、構成鉱物とその量比、鉱物の化学成分など、様々な角度から火山灰を調べることで引き出す。そのうえで、同じと思われる火山灰同士に、それらのデータに矛盾がないか?という事を調べていくのである。
 火山灰の対比は、その火山灰の広がった範囲、つまり火山の噴火規模に依存する。今の桜島の噴火では、鹿児島県やその周辺に広がる程度であるが、過去には九州から青森や北海道まで広がっている火山灰が見つかっており、それらは非常に大規模な噴火であったと思われる。古琵琶湖層中に見られる火山灰の多くもその様な火山灰であると考えている。

「地層から過去の環境変化と出来事を読みとる」
図3
図3 重い物ほど動かすのために力が必要

 地層は泥や砂などの堆積物がたまってできたモノである。それらは、砂や泥になってから、運搬(移動)され、とどまり、堆積する、という過程をへてきた。つまり、結果(地層)に対して原因(形成過程)がある。結果にはその原因となったもののヒントが残されているため、それらのヒントからどうやって地層ができてきたのか?を考えることができる。
 もっとも簡単な見方としては、地層を作っている粒の大きさ(砂や泥)である。粒(本当は質量)が大きいほど動かすには大きな力がいるので、大きな粒子で地層が作られていれば、単純に考えると、強い水(風でもよい)の流れがあったことがわかる。地層としての重なりを見たとき、地層の上へ見ていくほどだんだんに小さい粒子でできていれば、その地層は、だんだんに水流が遅くなるような環境に変化していった、ということが予想できる。
 粒の他には、構成している粒が模様を作っていないか?粒がそろっているかバラバラな大きさで構成されているか?粒は角張っているか丸くなっているか?地層の境界部分は明瞭か不明瞭か?削り込まれているか?など様々なものを見る。また、それと同じくらい重要なのは、それらの特徴で区分できる地層の積み重なりがどのようなものであるかがある。上記した例では、だんだんに粒が細かくなる、というものであったが、そういった積み重なりで考えることのできる環境変化が、あまりにも突飛なモノということは考えにくい。考え出された環境の変化が自然にあり得ることなのか?も大事である。と同時に、自然の中には我々が考え出せないようなことも起きるので、”従来の考えでは〜”という堅い発想だけでもだめである。

図4
図4 川や湖でそれぞれの環境の地層ができる

 また、長い時間の流れの環境変化だけではなく、地層は突然起きる現象も記録していることがある。たとえば地震である。地震が起きると、地面が揺らされ、それが地層に影響する。そのような証拠が、遺跡に残されていたり、今の琵琶湖湖底にも残されていることがある。地震以外の突然起きる現象には、火山の噴火活動がある。これは、地層の同時間面を見つけるために使われた、火山灰が手がかりになる。なぜなら火山灰は火山の爆発的噴火によってもたらされたものだからである。いろんな地域で同じ火山灰を見つけることは、地層の同時間面を見つける以外に、その火山灰の分布範囲を知ることになる。分布範囲は前述の通り、噴火の規模によるので、その火山の噴火の規模を知ることができる。
 このように、地層を詳細に研究することによって、過去の長い時間の流れで起きる環境変化や、現象などを知ることができるのである。


「参考図書」
ウイリアム J. フリッツ・ジョニー N. ムーア著・原田憲一訳(1999)層序学と堆積学の基礎.愛智出版,386p.
大原隆・西田孝・木下肇 編(1989)地球の探求.朝倉書店,226p.
八木下晃司(2001)岩相解析および堆積構造.古今書院,222p.
町田 洋(1977)火山灰は語る-火山と平野の自然史-.蒼樹書房,324p.
町田洋・新井房夫(1992)火山灰アトラス-日本列島とその周辺-.東京大学出版会,276p.
兼岡一郎・井田喜明 編(1997)火山とマグマ.東京大学出版会,240p.




(c)satoguchi

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