花粉と火山灰の観察会「火山灰の部」

 この観察会は,2002年2月24日(日)に博物館内で行われた,タイトルそのままの花粉と火山灰といった,普段肉眼で目にすることのないもの,とくに地層で見られるものを見ようという企画でした.残念ながら参加者は少なかったのですが,それでも参加された方々は,非常に興味をもって見ておられました.参加者が少なかった理由の一つは,タイトルがよくなかったこともあると思います.
  この観察会は,地学の宮本さん(花粉)と里口(火山灰)が担当しました.ここでは,私が担当した「火山灰」の部分の冊子を紹介します.実際に観察した物はここでは載せていませんが,火山灰とその研究についての解説を載せています.

1・今日観察する火山灰とは?
 今日は火山灰をみます.
 火山灰というと白くて,火山からもくもくとあがる煙というイメージがあるかもしれませんが,煙ではありません.火山灰は火山から噴出した噴出物のうち,砂粒〜泥粒くらいの大きさのものを指します.火山の噴出物といっても何のことかよくわからないかもしれません.特に,火山が近くにない地域に方にはなじみがないかもしれません.
 のでまず,観察する前に火山灰とはどういうものか?を説明する必要があるでしょう.

 〜火山灰のでき方〜
 火山はさまざまな活動をしていますが,そのうちもっとも火山らしさを誇るのが,噴火活動でしょう.火山の噴火によって溶岩や火山灰,軽石など様々なものが噴出されますが,それらはもともと”マグマ”と呼ばれる高温のために岩石が熔けたものなのです.
図1
図1 マグマだまりのマグマが,火山の爆発的な噴火で地上に放出される.そのとき噴火が爆発的であるためにマグマはちりぢり粉々の状態であるので,急激に冷やされ,粉状の火山灰が放出される.
つまり,地下にあるマグマが火山の噴火で噴出されることによって,どろどろに熔けた溶岩であったり,火山灰であったりと見かけが異なっているものが出てきているだけなのです.ここからわかることは,火山灰は漢字で読む,火山の灰,ではなく,溶岩と同じような岩石である,ということです.
 溶岩と火山灰が同じものといっても,溶岩はどろどろ,火山灰は粉といったように見かけが全く違います.この違いは,火山の噴火活動に関係しています.溶岩は,火山の比較的穏やかな噴火で,火山灰は火山の爆発的な噴火で噴出されるものです.つまり,爆発的であるが故に,マグマが噴出されるときにちりぢり粉々になったものが火山灰なのです.また,ちりぢり粉々になったために冷やされるのも早いので,溶岩のようにどろどろのまま出てこないで,出てきたとたんに粉になっているのです.
 火山灰が噴出されるときに,軽石なども出てくることがありますが,これは軽石が火山灰と同じようなものからできているためです.すなわち軽石というのは,火山の爆発的噴火によって噴出されますが,火山灰ほどちりぢり粉々にならず,ある程度の塊で出てきたものという様に考えればよいでしょう.

 〜火山灰の構成物〜
 ところで,火山灰はどのようなものでしょうか?でき方を考えると溶岩岩石の粉ですが,火山灰の構成物を大きく分けると,火山ガラス,鉱物,岩片の3つに分かれます.
  ・火山ガラス
 火山灰のほとんどが,この火山ガラスと呼ばれるものからなります.マグマは,地下で冷えて固まっていきますが,このマグマはゆっくり冷えていくと鉱物を作ります.しかし,火山の爆発で,マグマが地上に出てくると,急激に冷やされることによって,鉱物を作らないまま固まってしまいます.このときにできるのが火山ガラスです.窓ガラスなどは,高温に熱して形を整えて冷え固めますが,結局これと同じようなものなのです.
図2
図2 マグマだまりのマグマは,地下にあり,マグマ自体は高熱であるが,周辺は冷えているため長い時間をかけて冷やされていく,その時に鉱物を作る.
 この成分を調べることは,火山灰を噴出した火山のマグマの性質を知ることにつながります.
  ・鉱物
 前述のように,マグマは地下でゆっくりと冷えていく段階で鉱物を作りますが,火山が噴火するときにマグマを噴出するので,噴火前に作られていた鉱物も一緒に噴出します.そのため,火山灰の中には鉱物が入っています.この鉱物は火山灰を作る構成物の中では量的に少ないものの,その火山灰の特徴をよく表しています.というのも,火山灰によって入っている鉱物や鉱物量比が異なっているからです. また,これらの鉱物を調べることは,その火山灰を噴出した火山がもともと持っていたマグマの特性を知ることにつながります.
  ・岩片
 岩片とは名前の通り,岩石の破片です.この岩片は火山灰によっては入っているものもありますが,あまり多くありません.また,岩片には火山灰が噴出するときに入っていた本質岩片と,火山灰が堆積するときに入った異質岩片の2種類があります.
 本質岩片は,火山灰を噴出した火山の本体やマグマをためていたマグマだまりや,噴出する時にマグマが通ってきた火道の岩石を,火山の噴出時に一緒に取り込んできたものです.これを調べると,火山灰の故郷がわかるはずです.ただし,異質岩片との区別が難しいです.
 異質岩片はその堆積場によっていろんなものが入ります.


 〜火山灰を調べることは?〜
 火山灰の研究は,特に日本ではもともと,地層の同じ時間を見つける鍵層(鍵になる地層)の研究として行われてきました.鍵層の研究とは,離れた場所にあるいくつかの火山灰の中で,同じ火山灰を見つけようとする研究のことです.同じ火山灰を見つけようとするわけですから,その火山灰の特徴を知るための様々な研究が必要になってきます.つまり,それぞれの火山灰の個性を見いだしてやるわけです.その個性を見いだすという作業が,火山灰の構成物をみるとか,屈折率をはかるとか,化学成分を調べるとかといった作業だったのです.
図3
図3 偏光顕微鏡.光源から出た光は,下の偏光板を通り,プレパラート中の鉱物を通り,対物レンズを通して,上の偏光板を通り,接眼レンズから観察者の目に入ってくる.そのときに,鉱物によって光は様々な動きをするため,異なった鉱物と認識できる.
 しかし,火山灰の特徴を調べることは,火山灰が火山の噴火活動によってもたらされたものであることから考えると,その火山の噴火の特性などを保存しており,何よりも火山灰の存在は火山噴火があったことを示しているので,過去の火山噴火活動を知る手がかりになるのです.特に,古琵琶湖層の年代(400万年以降くらい)に活動をしていた火山は,日本が火山帯にあり,構造運動が激しいために,すでに残っていないために,過去の火山噴火活動を知る手がかりが,地層中にある火山灰に求められるのです.

 今日みる火山灰のいろいろなことは,火山灰の特性を知り,過去の火山噴火活動についてを知る手がかりになることだと思ってください.


2.火山灰を偏光顕微鏡で見ましょう
 火山灰はマグマが火山の爆発的噴火によって噴出したもので,粉々になったものですから,溶岩が固まってできた岩石の粉,と考えてもあまり大きな違いはありません.粉といっても,砂粒〜泥くらいの大きさのものを火山灰といっているので,火山灰を観察するためには,肉眼でみるのは目のいい人でもちょっとつらいので,顕微鏡を使います.それも岩石薄片などを観察する時と同様に,偏光顕微鏡というちょっと変わった顕微鏡を使います.


 〜偏光顕微鏡について〜
 偏光顕微鏡は,普通の顕微鏡と違って,偏光装置が付いた顕微鏡のことです.偏光装置の原理については,詳しく説明するのが難しいので,ここでは,岩石や鉱物の特徴を捉えるための装置だと理解してください. 簡単に説明すると,偏光装置は顕微鏡の下部分に,一つ偏光板があり,火山灰を封入したプレパラート(ガラス板)をはさんで上側にもう一つ偏光板があります.下側の偏光板は多くの場合入れっぱなしで,上の偏光板を出し入れして,鉱物の特性を見分けます.
 (興味のある方へ:参考文献は,文末にあります)

 〜火山灰の構成物〜
 火山灰の構成物は前述のように,大きく分けると3つに分かれます.今回はそれらのうちの,火山ガラスと鉱物について観察します.
  ・火山ガラス
 火山ガラスは,マグマが火山噴火によって地上に噴出し,細かくちぎれて急激に冷やされたものからできています.ですから,マグマが噴出する直前の状態を残しています.ですから,鉱物のようにきれいな形をしているわけではなく,いろいろな形をしています.その中でも,よく見られる火山ガラスについていくつかみます.
図5
図5 液体と異なった屈折率であれば,光はそこで屈折したり反射したりしてしまうが,同じ屈折率であれば,同じ動きをするため,素通りしてしまい,観察者は,液体の中の個体の輪郭が見えないため,認識できない.
図4
図4 火山ガラスの形状は,マグマ中にあったガス(気泡)の大きさやその量によって,違った形に見える
 扁平型・バブルウォール型:平たい形状や,平板に1〜3の筋やY形の筋がついている
 多孔質型・軽石型:細かい泡がたくさんあるような形
 基本的にはこのような形で,その中間的なものや,細かい泡が少ししかないものや,泡がない塊状のものなどがみられます.
 このような形は、マグマの中にある気泡(火山ガス)の大きさが反映されているといえます.扁平型やバブルウォール型は,気泡跡がみられませんが,これは気泡が大きいため,その気泡の壁面の一部分からできているため
と考えられます.逆に多孔質や軽石型に細かい泡がたくさんあるように見えるのは,気泡が小さくそれらがたくさん集まったままの塊であるためと考えられます.
  ・鉱物(軽鉱物と重鉱物)
 鉱物にもいろいろ種類があります.それも火山灰によって入っている鉱物が異なっており,それらの量比も違います.また,鉱物は大きく分けると軽鉱物と重鉱物があります.これらの違いは,軽いか重いかの比重による違いですが,たいていの場合,軽鉱物は無色透明か色が薄く,重鉱物は黒っぽい色をしています.
 軽鉱物には,石英や長石といった,砂などにもよく含まれる鉱物があります.
 重鉱物はとくに火山灰を特徴づける鉱物として重視されます.重鉱物の中でも火山灰によく見られる鉱物としては,黒雲母,角閃石(普通角閃石が多い),斜方輝石(しそ輝石が多い),単斜輝石(普通輝石が多い)があります.その他の重鉱物としては,ジルコン,燐灰石,ざくろ石,酸化角閃石などがあります.
 宝石として有名なガーネット(ざくろ石)や,ペリドート(かんらん石)なども火山灰に含まれますが,普通は砂粒くらいの大きさなのであっても宝石には使えません.ちなみに,古琵琶湖層の火山灰にはかんらん石は入っていません.

3.火山ガラスの屈折率をはかりましょう
 火山ガラスや鉱物は,それを噴出したマグマの性質を反映しているので,それらの化学組成などを知ることは重要です.しかし,火山ガラスの形状や構成鉱物,化学組成以外に火山灰の特徴を知る上で昔から行われているのが,屈折率の測定です.ここでは火山ガラスの屈折率をしらべます.
 屈折率は,その物体の様々な要素から成り立っており,屈折率自体がそのものの何を反映しているのかは難しいですが,特徴を知る一つの指標にはなります.
  〜温度変化型屈折率測定装置〜
 屈折率をはかる方法はいろいろとありますが,火山ガラスはいろんな形状をしており,また小さいため,直接光を当ててどれくらい光が曲がるか,というようなことはできません.そのため,火山ガラスや鉱物の屈折率をはかる特別な方法を行います.
 火山ガラスの屈折率をはかるにはいくつかの方法がありますが,ここでは,温度変化型屈折率測定装置を使ってはかります.
 透明の個体を透明の液体に入れると,どちらも透明なのに,液体の中にある個体は見えています.これは,液体に入った光が,個体の表面で反射したり,個体の中を通り抜けるときに屈折してしまうために,その個体がある場所で,光が異なった挙動をするために,違った物体がある像を我々に見せてしまいます.もし,液体の中にある個体に光が通ったときに,屈折をしない(つまり屈折率が同じ)と,そこを通ってきた光は,我々に液体の中にある個体の像を見せません.光にはこのような性質があります.火山ガラスの屈折率の特定はこの原理を使います.
 すなわち,火山ガラスをある液体の中にいれ,その火山ガラスの形が見えなくなる用に液体の屈折率を調節して,その液体の屈折率をはかることによって,間接的に火山ガラスの屈折率をはかろう,というものです. それで,温度変化型屈折率測定装置は,火山ガラスの形が見えなくなるようにするための液体の屈折率の調節を,温度を変化させることによって行います.屈折率は温度によっても変化します.温度変化と屈折率の関係,をあらかじめ調べておいたある液体を使って,その液体に火山ガラスを入れ,液体の温度を変化させて,火山ガラスの形が見えなくなった温度から,その屈折率を測っていきます.
 同じ火山灰の中にある火山ガラスであっても,少しずつ屈折率が異なっているので,普通屈折率は,ある範囲で示されることが多いです.

4.まとめ
 このようにして,火山灰のさまざまな特性(個性)を調べることによって,遠く離れた場所にある地層中に同じ火山灰を見つけたり,その火山灰から過去の火山噴火活動を調べたりします.
 こういった研究は,地味なのですが,日本のように古くから火山活動が活発であったような場所では,いったいどのような火山活動が行われてきたのか?を長期的に知る手がかりを地層中の火山灰は持っているので,とっても大事です.
 また,大事という以外にも,顕微鏡で火山灰を覗いていると,非常に美しい世界が広がっていて,何となく楽しい様な気分になります.

「参考図書」
(火山と火山灰)
町田洋・新井房夫(1992)火山灰アトラス.東京大学出版会.
町田洋(1976)火山灰は語る.蒼樹書房.
宇井忠英 編(1997)火山噴火と災害.東京大学出版会.
下鶴大輔(2000)火山のはなしー災害軽減に向けてー.朝倉書店.
(偏光顕微鏡)
黒田吉益・諏訪兼位(1983)偏光顕微鏡と岩石鉱物(第二版).共立出版.
井上勤 監修(2001)新版顕微鏡観察シリーズ4「岩石・化石の顕微鏡観察」.地人書館.
都城秋穂・久城育夫(1972)岩石学I.共立全書.


  2001年度琵琶湖博物館観察会
   「花粉と火山灰の観察会〜火山灰の部〜」資料
     2002年2月24日(日)実施,発行
     作成者:里口保文
            (c)琵琶湖博物館 2002

 観察会担当:宮本真二(花粉の部),里口保文(火山灰の部)
 実施場所:琵琶湖博物館実習室,電子顕微鏡室,地学研究室



(c)satoguchi

里口の講座トップページに戻る