A展示室の場所:自然史研究室、古琵琶湖層
地層からわかること、というのはいろいろな事がありますが、大変重要なこととしては、“時間とともに変化する事柄をとらえることができる”と言うことです。その変化は、地震や火山のような突発的に起こる自然災害のようなものもあれば、非常に大きな時間の流れで起こる事柄、たとえば気候の変化、生物進化、地球内部の変動とそれに伴う地球表層部分の変動、それらの間にある因果関係などといったものです。
![]() |
| 図8-1 ものは高いところから低いところへ動くため,水に流されると泥や砂も低いところへ動き,止まったところに堆積する(左図).それぞれの地層はその時代の環境などを保存する.地層は順番に上へ積もるので,地層の積み重なりは時間の経過を表し,地層の面はその地層がたまったときの水平的な広がりを表している(右図). |
地層の研究は、“時間とともに変化する事柄”をとらえる事が重要と述べましたが、具体的にはどういう意味なのでしょうか?
地層のできる場所というのは、泥や砂などがたまる場所です。たとえば、泥や砂がたまるときにその当時生きていた生き物が同時に埋まって化石として残れば、当時の生き物を地層が保存したことになります。そうやって、砂や泥が地層として保存される時に一緒にその当時の生き物や気候など様々な意味で当時の環境を保存します。私たちはその地層に保存されている“何か”を読みとる事で、当時の環境を知ることができるのです。
そして、泥や砂はある一時期にためるだけではなく、ある一定期間泥や砂をため続けて地層を作っていくことが多く、そういった場所にはその期間に地層が作られ続けます。地層は泥や砂が下から上へ順に積もっていくので、地層の下ほど昔にたまったモノで、上ほど新しい時代にたまったという事がわかります(図8-1)。地層のある部分は、その地層をつくった時代の環境を示しているので、地層を下から上へ見ることは、古い時代から新しい時代へそれぞれの時代の環境を見る、つまり、時代の経過とともに移り変わった環境の変化を見ている、ということに成ります。
![]() |
| 図8-2 地層のイメージとして,四角い箱で考える.崖で見ると,地層の境界は線で見えるが,実際には面を作っている.地層が崖を作るためには,陸の高いところにあがってこなければならず,その時には傾いてしまうことが多い(2つ目).傾いた四角い箱は,地層としての広がりがあるので,四角い箱にイメージをし直しても問題がないので3つ目のようにイメージし直す.陸の高い所へあがると,部分的に削られてしまうので,見えないところが多くなります(4つ目). |
地層の積み重なりは時間の経過を表しているとも言えますから、逆に言えば、時間の経過を知るためには、地層がどのように積み重なっているかを知る必要があります。こういった積み重なりの事を“層序”と言います。例えば、図8-1のような地層があれば、その場所での地層の積み重なり、つまり層序は見たまんまで、簡単に理解できます。しかし、一つの崖で見られる地層には限りがあり、実際には地層はもっと広範囲に分布していますし、厚さももっと分厚いことが多いので、崖として離れていても実際には重なりあっている事が多いです。たとえば、古琵琶湖層などは、一つの崖で見られるものはほんの数mで時間にすると長くても数万年程度と思われますが、古琵琶湖層全体では400万年もの時間を保存していると言われています。これは、古琵琶湖層のもっとも古いものが400万年前であることと、その地層が分布している三重県の上野市から今の琵琶湖まで地層としてはずっとつながっている、つまり積み重なっているということがわかっているからです。その積み重なり(層序)は野外調査からからわかりました(図8-2)。野外調査は非常に地味な作業ですが、この調査によって層序を正しく理解できなければ、いくらたくさんの化石が出てきても、地層から当時の環境を知ることができても、時間的な理解ができないため、それらの重要度が半減してしまいます。ですから、層序、という聞き慣れないもので化石のようには魅力もないものですが、非常に重要であると言えます。
![]() |
| 図8-4 はぎ取り標本の砂層部分(下部)の堆積構造スケッチ. |
![]() |
| 図8-3 A展示室自然史研究室にある古琵琶湖層のはぎ取り標本. |
前述した地層が環境を保存している例は、主に化石についてでした。当時の生き物がわかったり、当時の生き物から気候がわかったり、生息環境から環境を推測したりできます。また、第6回に出てきた海に住む有孔虫化石の殻から気候変化がわかったりといった具合に、地層に含まれている化石からは環境がわかるのですが、化石からしか当時の環境がわからないのでしょうか?
地層を作っているのは、泥や砂や礫(石ころ)などです。これらがどこかにたまるということを“堆積する”といいます。また、泥や砂などのたまるモノを、堆積する物ということで“堆積物”と言います(これは第2回の岩石の話ででてきました)。これらは、それぞれたまる環境が違っています。砂や礫はほとんどの場合、どこかの岩石が崩れてできるので、それがたまる場所まで運ばれる必要があります。これらを運んでくるのは、多くの場合水の流れ(水流)です(風の場合もある)。重い石、つまり大きな石ほど動かすために必要な力は大きな力になりますが、この場合の力とは、水流ですから、大きな石ほど動かすためには速い水流でなければなりません。つまり、泥よりも砂、砂よりも礫のほうが速い水流で運ばれてきたことがわかります。すなわち、そのような環境でその地層が作られたということがわかります。もちろん、この情報だけでは水流の速さだけしかわかりませんが、もっといろんな情報を地層から読みとることによって、その地層ができた環境がわかります。例えば模様です。
![]() |
| 図8-5 A展示室自然史研究室にある地層模型. |
自然史研究室のはぎ取りの地層ができた環境は、地層模型と同じような環境としましたが、この地層模型に限らず、最近いろんな環境でできる地層の事がわかってきています。それはどうやってわかったのでしょうか?
![]() |
| 図8-6 A展示室自然史研究室にある実験水路. |
![]() |
| 図8-7 一方向の流れで出来る砂層の模様例(small-current-ripples). |
私たちの一生は長い人でも約100年ですから、身の回りで起こっている事の変化は、よほど急激で大きな変化でない限りその変化に気がつきません。地球環境の変化というのは、人間が積極的に環境を改変しなければ、かなりゆっくりなモノなので、私たちはその変化にあまり敏感ではありません。例えば、第6回に話をした気候変動では寒くなっていくのが非常にゆっくりなので、地層の研究からしか“人間が何もしないでも地球上では寒暖が何度も繰り返されてきた”というようなことはわかりませんでした。また、日本列島の基盤を作る岩石をよくしり、様々な見解を論理的に戦わせることによって、また新らしい発想をたてることをしなければ、第2回や第5回に出てきた付加帯などを理解することはできませんでした。そのことは、現在が不動のものではなく、どんどんと変わっているある時間にいるだけだという事も教えてくれます。地学の面白さというのは、そういう長い時間の中でゆっくりと起こっていることや現代人が知らない規模の自然現象(火山噴火や地震など突発的に起こること)がこれら起こる可能性などを教えてくれる事にあると思います。
そういったおとぎ話のような世界、というだけではなく、現在の我々の環境改変についても考えさせられることは多いです。たとえば、滋賀県の湖東平野にはたくさんの人が住んでいますし、日本の人口の多いところはたいてい平野部や、山間部の平坦な場所です。こういった場所は昔から何度も起こってきた洪水など、私たちが災害だと感じるような現象によって作られています。もちろんその時代時代の人々はそういった洪水から身をまもるために、河川が氾濫しないように工夫をしてきました。現在では、河川をコンクリートで固めて川の氾濫をなくし、水があふれないように流れていくような工夫をしています。また、平野部へ土砂災害が起こらないように、山間部には砂防ダムを造っています。このような人間の行為はそのときの人々にとっては非常に重要なものですが、見方を変えれば、未来の自分たちのすむ地盤を自分たちでなくす行為であるとも言えます。人という生き物が今後どれくらい長持ちできるのかわかりませんが、現代の人々が困らないために行っていることは、将来の人々にとって困るかもしれないことになっているとも言えます。今の私たちにはそれほど長期的に物事を考えられる様な余裕はありません。将来のために、といって現代の人々が絶滅するような行為はできないからです。しかし、少しでも長期的な視野で物事を考えることは、現代に起こっている環境問題を考えていく上でも重要な事だと思われます。
|
(参考図書) 沓掛俊夫(1995)地球史入門.産業図書,173p. 原田憲一 訳(1999)層序学と堆積学の基礎.愛智出版,386p. 八木下晃司(2001)岩相解析および堆積構造.古今書院,222p. 大原 隆・西田 孝・木下 肇,編(1989)地球の探求.朝倉書店,226p. |
地学講座:第8回「地層のいろいろ」
2003年3月12日(水)
(c) satoguchi
![]() 第7回鉱物のいろいろ |
![]() 地学のトップへもどる |