このページは,琵琶湖博物館の内部向けの8回連続講座としておこなった時に作ったテキストを,web用に再構成したものです.
内部向け講座について

第6回「気候変化と海面変動」

A展示室の場所:亜熱帯の湖,コレクションギャラリーなど

図6-1 極地域の陸域にある氷床が拡大すると,海の水が氷の塊として閉じこめられるため,液体としての海の水が減り,海水面が下がる.

・)気候の変化

 地球温暖化が叫ばれて久しいですが、この原因は人間活動による二酸化炭素が増えていることとも言われています。このような気温の増加は、人間活動が活発にならなければ起こらないことなのでしょうか?
 実はこれまでに、人間活動と関係なしに地球上が寒くなったり暖かくなったりしていることがわかっています。たとえば、日本の縄文時代はいまよりも暖かかったと言われています。また逆に、氷河期といわれる時代は今よりも寒かったとされています。また、400万年前の琵琶湖周辺は暖かい時代であったことが、A展示室の亜熱帯の湖で示されています。さらに、このような気温の寒暖は、何度も繰り返し起こっているとされています。こういった気候の変化は、もちろん現在のような活発な人間活動によるものとは考えられません。たしかに、現在の温暖化は人間活動の活発化が原因なのかもしれませんが、そういった事柄は、人間がいようがいまいがおこいうる地球の変化との関係の中で考える必要があります。しかし、今いわれている地球温暖化の問題は、人間活動によるよらないはあまり問題ではなく、地球が暖かくなることそのものが問題視されています。ですから、もし、人間活動の活発化が原因でなくても、地球が温暖化するとなると何らかの対策を考えるのだと思います。当然そのことによる地球への負荷があるかどうか?というような事も同時に叫ばれるとは思いますが。
 気温の変化は、地球上のどこでも同じように行われる訳ではなく、場所によって、特に緯度によって違います。どちらかと言えば、赤道付近よりも極地域(北極や南極)へ行くほど大きくなります。ですから、極地域へ近づくほど寒暖が激しくなるということです。

・)海進と海退

 前述の縄文時代が暖かかったということは、どうしてわかったのでしょうか?縄文時代には、海岸線が現在よりも内陸部にあったと言うことが考古学の遺跡調査からわかっています。貝塚など、海の近くにあるべきモノが内陸部にあるという不自然な分布をしていました。これは、縄文時代には今よりも海岸線が内陸部にあり、その近くに住んでいた人々のものと考えられました。このように海岸線が内陸部に移動することを“海進”とよびます。縄文時代におこった海進は“縄文海進”と呼ばれています。逆に海岸線がより沖合へ移動することを“海退”といいます。こういった海進や海退と気候の変化とはどのような関係にあるのでしょうか?
図6-2 海進.地球表面の温暖化によって海水面が上昇すると,海岸近くの地形によっては,海岸線が陸側へ進んでくるように見えることから.海退は,この逆の現象.
 縄文時代には暖かかったとされていると、前述しましたが、これは縄文海進と関係しています。一般に暖かい時には海進が起こり(海が内陸部まで入ってくる)、寒くなると海退が起こる(海岸線が海側へひいていく)と言われています。これは、暖かいと雨が多くなり寒いと雨が少なくなるという事ではなくて、極地域にある氷河や氷山との関係です。地球が暖かくなるとその温暖化は、極地域がもっとも影響を受けます。そうすると、極地域には氷河、つまり氷の塊があるので、それらが融け出します。塊として閉じこめられている水が融けて海に流れ込むと、海水の総量が増えるので海水面があがります。海水面が上昇すると、陸域でも平野部などは標高が低いので、海になるところが出てきます。例えば、標高2mの場所などは、海面が3m上昇すると、標高-1mとなり、海の底になってしまうわけです。このとき、陸域の地形を考えてみると、断崖絶壁の海岸などは違いますが、砂浜などがある海岸を考えると、海から陸へはだんだんと高いところへいくような地形になっています。そういう場所では、海面が徐々に上昇してくると、だんだんと海が陸へ上がってくるように見えます(図6-2)。このことから海面上昇を、海進、というようになったと言えます。
 その逆に海退は、海が退いていくわけですから、海面が下降する事と考えられます。海面が下降するということは、融けだして海に流れ込んでいた水が、極地域に氷河や氷山という氷の塊として閉じこめられることが考えられます。つまり、海進と逆に、海退は寒冷化した時に起こる現象といえます。
 ただし、海に浮かんでいる氷山などは、ほとんどが海の中にありますので、海にある氷山よりも、陸域にある氷河などが融けて水として海に流れ込む方が、海面上昇への影響が大きいです。その逆に、寒くなって氷河が陸域に作られる方が海面降下への影響が大きいです。同じ極地域でも、北半球より南半球の方が南極大陸があるため、海面変化への影響が大きいと考えられます。ただし、北半球には、極から少し離れたところに、ユーラシア大陸や北アメリカ大陸などの大きな陸域があることから、このあたりの氷河分布が大きくなったり小さくなったりすることによる、海面変化への影響は大きいです。

図6-4 陸橋のイメージ.寒冷化が進行して海水面が低下したために,浅い海だった場所が陸域になることで,海で隔たれていた場所が陸でつながるという考え.
図6-3 陸橋の間違った漫画チックなイメージ.細長い人工的な橋があった,というわけではなく,実際には海水面の低下による,陸域の増加と関係する.

・)陸橋

 海でへだたれた地域に近縁の種類の動物がいる理由として、「陸橋」というものが考えられました。陸橋とは、文字の通り陸の橋の事です。すなわち、陸と陸をつなぐ橋のようなものが存在したのだ、という考えです。このとき、“橋”というイメージから、人工的なモノや細長い海に架かるようなモノを想像されるかもしれませんが(図6-3)、実際には、海水面が下がることによって、それまで海の底だった場所が陸域になり、海で隔たれていた場所が、陸でつながってしまうというものです(図6-4)。日本などの島では、大陸にいる動物との関係を考える上で、この陸橋の考えが非常に重要となっています。たとえば、日本にいたゾウなどの動物は、大陸からわたってきたと考えられており、特にゾウの種類については、何度も入れ替わったとされています。その入れ替わりが大陸と地続きになってわたってこれた時期だとの考えもなされています。
 このように気候変動は、動物の分布範囲を広げたり狭めたり、また移動したりということとも関係しています。

・)気候の寒暖はどのようにわかるのか?

 A展示室の亜熱帯の湖では、今よりも暖かかった時代であったことが示されています。これは、その当時にたまったとされる地層中に保存されている化石から、昔いた動物が、暖かいところに住んでいるはずの動物であったり、暖かいところに生えている植物の化石や花粉が見つかることによります。それぞれの地域における昔の気候については、地層中に保存されている化石から検討されます。そういった化石から過去の気候をしる手がかりがありますが、もっと別の方法もあります。
 酸素同位体比というのを使うと、気候の変化がわかるとされています。これは、海に住んでいる有孔虫という炭酸カルシウム(CaCO3)の殻でできた微生物を化学的な分析をするとわかります。

・)酸素同位体比の考え方

 暖かい時期と寒い時期の違いは、酸素同位体というもので調べることができます。酸素には重い酸素(酸素18)と軽い酸素(酸素16)があります。水(H2O)は水素(H))と酸素(O)からできているので、重い酸素でできた水と、軽い酸素でできた水の両方があり、海の水も同様に重い酸素でできた水と軽い酸素でできた水の両方があります。しかし、海の水が蒸発するときには、重い酸素を使った水よりも、軽い酸素を使った水の方が蒸発しやすいという性質があります。地球上が寒い時期になると、海から蒸発した水は、北極や南極などの極地域に氷河などの氷の塊として水は閉じこめられます。このとき、氷の中に閉じこめられる水は、軽い酸素を使った水が多いので、海の水は、重い酸素を使った水が比率的に増える事になります(図6-5)。
図6-5 軽い酸素(16)からなる水の方が,重い酸素(18)からなる水よりも蒸発しやすいため,地球上が寒冷な時期には,軽い酸素の水は極地域で氷として閉じこめられてしまう.そのため,海の水は重い酸素(18)からなる水の比率が高くなる.
 有孔虫が炭酸カルシウムの殻を作るときには、海の酸素も使いますので、このとき重い酸素と軽い酸素のどちらも使います。ですから、海に軽い酸素が多いときには、そのときに生きていた有孔虫は軽い酸素をたくさん使っていて、海に重い酸素が多いときには、有孔虫の殻には重い酸素が多くなります。つまり、地層中に残っている昔の有孔虫(有孔虫化石)の殻にある酸素を調べることによって、過去の気候変化を間接的に調べることができるのです。このことについては、過去数百万年にわたって調べられています。それによると、過去に何度も寒暖を繰り返していることがわかります。また、その寒暖は非常に周期的に行われているように読みとれます。

・)周期的な気候変化

 気候の変化を数年〜数十年の変化で読みとるともっと細かく変化している事がわかります。しかし、それをより長い時間でみると、細かい変動は読みとられませんが、もっと長い時間で起こっている変化が理解できます。例えば、数千年程度を一塊りの気候としてここ100万年程度の変化を読みとっていくと、10万年程度の寒暖の周期性、つまり寒暖の繰り返しがあることが見えてきます。現在は、この周期のなかでは縄文時代に暖かいピークを迎えて徐々に寒くなる時期に当たっていると考えられています。このような周期性の原因は、地球の動きと関係していると言われています。地球の動きとは、地球が太陽の周りを回っているとか、地軸の傾きや向きが変化しているなどです。このような周期は、この周期性について考えた人の名前をとって、ミランコヴィッチ周期などと言われます。
 さて、今回取り上げた寒暖は、ここ数十万年の出来事なのでしょうか?A展示の亜熱帯の湖の時代は今よりも暖かかったと言われますし、恐竜の時代にはもっと暖かかったと言われています。気候の変化についてもっと過去までさかのぼってみると、もっと大きな変化が見えてきます。現在は、氷河時代ともいわれ、非常に細かな寒暖の周期がありますが、全体としては寒い時代とされています。前述のように恐竜の時代、特に中生代の半ばから終わり頃には、非常に暖かい時代が続いていたと言われています。そして、その前の時代にさかのぼると、全体的に寒い時代だったと考えられており、今と同じような氷河時代と言えるような時代だったと言われています。つまり、今のように寒い時代は地球始まって以来初めてというわけではなく、長い期間で見れば、数億年という周期で、寒くなったり暖かくなったりという、もっと大きな気候変化を繰り返している事がわかります。この原因について、地球のもっと大きな動き、太陽系が銀河系の渦の腕の中に入る時期と一致しているのだ、という意見もあります。

 
(参考図書)
大原 隆・西田 孝,編(1990)地球環境の変容.朝倉書店,191p.
大原 隆・西田 孝・木下 肇,編(1989)地球の探求.朝倉書店,226p.
田渕 洋,編(2002)自然環境の生い立ち−第四紀と現在[第三版].朝倉書店,206p.
沓掛俊夫(1995)地球史入門.産業図書,173p.

地学講座:第6回「気候変化と海面変動」
2003年2月26日(水)
(c) satoguchi




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