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琵琶湖博物館収蔵品ギャラリー

私の逸品

主任学芸員 陸水学 ジャン=ジャック=フレネット (Jean-Jacques FRENETTE)

ラン藻


 ラン藻はシアノバクテリアとも呼ばれ、世界で最も繁栄している生物の一つで、全ての陸域・水域の生態系の中に存在し、最も極端な環境条件にも耐えることができます。たとえば、−70℃の低温で乾燥した南極にも、80℃以上にもなる高圧で高温の熱水鉱床にもいます。それほどラン藻類が全体として生態学的に繁栄しているのは、それぞれの種が特殊な環境条件へ驚くべきほどうまく適応できるからでしょう。

 ラン藻のもうひとつの特徴はその古さです。約30億年前から生息する地球上で最古の生物のひとつなのです! そして、光合成をおこなった最初の生物でした。彼らは人間のように空気をすって生きる生物が現れるために必要な(空気の構成要素、つまり大気中の)酸素の生成に貢献しました。

 ラン藻はプランクトンとして広く繁栄しています。たとえば、食物連鎖に欠かすことのできないピコプランクトン(0.002mm以下のプランクトン)の中にはラン藻類が多く含まれます。ピコプランクトンは、蛍光顕微鏡の発達により近年(1977年)になって発見されました。その発見により、生態学における新しいパラダイムが促進されました。それは、多くの動物プランクトンのエサとなるピコプランクトンと、バクテリアを含む微生物食物網というものです。これは、エネルギーの流れや炭素の循環、栄養塩の放出に関するわれわれの理解をくつがえしました。ピコプランクトンが生態学的に繁栄しているのは、貧栄養と呼ばれる栄養塩の少ない環境で、栄養塩をとらえることができる特別な能力があるからです。さらに、ピコプランクトンは非常に光の少ない所でも光合成を行うことができます。これは、特別な色素を持ち、しかも小さいので、光に対して高い感受性があるからです。

 もうひとつのラン藻の例は、水の表面に緑色のペンキを流したようなアオコを発生させるミクロキスティスやアナベナです。これらの藻類は、琵琶湖のような中栄養湖や諏訪湖のような富栄養湖といった、栄養塩が豊富な環境で増殖します。これらの生物は、そのような環境で有利に暮らしていけるように進化してきているのです。たとえば、浮力を調節する特別なガス胞を使って水中を上下することができ、光合成に適した光の強さの所を探して位置を定めるのです。残念ながら、こうした大型で水の華を形成する種は、水をまずくしたり、毒性化学物質を生成するといった水質問題の原因となります。貴重な水資源である琵琶湖でこれら有害な藻類の量を予想しコントロールするためには、もっと多くの情報が必要です。

 ラン藻と聞いて私が最初にイメージする言葉は、「魅力」です。その進化的適応の多様さは、常に私を刺激します。ラン藻は、「自然は有意な戦略を保存する」という好例を示しているのです。彼らは過去の目撃者であり、その意味では生きた化石がなんたるかを非常によく表しています。したがって、その独特な生態学的繁栄を可能にしたメカニズムについて理解することは、過去への、またはある意味ではわれわれ生物としての人間の起源への誘いとなります。このことが、私がラン藻を宝物と思う理由です!           

(翻訳:亀田佳代子)


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