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−研 究 最 前 線−

海外から琵琶湖に移入した魚類寄生虫

琵琶湖博物館 専門学芸員 マーク J. グライガー
福岡教育大学 助 教 授 浦 部  美 佐 子


 琵琶湖やその流入河川には、10種以上の移入魚(大部分は海外からの移入)が定着しています。これらの魚と一緒に、寄生虫も偶発的に移入していると予測されます。琵琶湖博物館からの研究援助によって、日本とチェコの寄生虫研究者が、琵琶湖と大同川水系の魚類寄生虫の研究を補助するために集まりました。1997年から、私たちは数種の移入種を含む62種の魚を調べました。その結果、すべての魚種が、1種類以上の寄生虫に寄生されていることが発見されました。寄生虫は、典型的には複雑な生活環をもち、2種以上の宿主を必要とします。琵琶湖の魚は、ある寄生虫にとっては終宿主(成虫段階で寄生する宿主)であり、別の寄生虫にとっては中間宿主(幼虫段階で寄生する宿主)の役割を果たします。私たちの調べた範囲では6種の寄生虫が移入種と思われ、その他に1種が共同研究者の一人によって1980年に採集されています(浦和茂彦、水産庁さけ・ます資源管理センター)。これらの寄生虫は、単生類(4種)、線虫類(2種)、甲殻類(1種)という3つのまったく異なるグループに属しています。これらのうち2種は、私たちの研究で日本から初めて記録されました。なお、ここに書かれた寄生虫は人間には感染しないので、魚を食べても大丈夫です。
単生類 Haplocleidus furcatus(宿主:オオクチバス)の固着盤の中心鉤と連結板(写真提供:小川和夫氏)
カムルチーの幽門垂から得られた線虫 Pingus sinensis
イカリムシ科甲殻類 Lamproglena chinensis, 頭部は宿主カムルチーのえらの小片に垂っている。線の間隔は1mm

単生類

 単生類は魚の体表に寄生し、実体顕微鏡で魚のひれやえらを観察すると簡単に見つけることができます。外見はヒルのミニチュアといったところですが、ヒルと近縁ではありません。単生類は固着盤(体の後端にある固着器官)上の鉤を使って宿主にくっついており、主に鉤の形態に基づいて分類されています。東京大学の小川和夫教授によって琵琶湖とその周辺地域から40種が同定されましたが、そのうち4種は北米原産で、アメリカからの移入魚から見つかりました。Haplocleidus furcatus(日本初記録)、Onchocleidus helicus、および Actinocleidus fusiformis の類似種の3種は今回の調査でオオクチバスから得られ、Onchocleidus ferox は1980年の調査でブルーギルから得られました。驚くことに、琵琶湖では、これら2種の魚はそれ以外の移入寄生虫を持っていないようです。

線虫類

 チェコ科学アカデミー寄生虫学研究所のF・モラヴェッツ博士は、琵琶湖の魚から、2種の明らかに移入種である線虫を同定しました。線虫は大抵円柱形で、両端が細い形をしています。水中や湿った環境に生息する自由生活の種も多いのですが、寄生性の種も多く、ほとんど全種といってもよい動植物の中に線虫の幼虫または成虫がみられます。Pingus sinensisは、1930年代に琵琶湖に移入されたカムルチー(Channa argus)の幽門垂(胃の出口(幽門)付近にある盲嚢)に寄生する線虫です。この虫は中国とベトナムのChanna属の魚に寄生し、私たちの採集したものは日本で2例目で、1例目は東京の皇居の堀のカムルチーから、3例目が岐阜県から記録されています。2番目の移入線虫はRaphidascaris acusで、ウナギの腸から幼虫が見つかっています(日本初記録)。
 淡水産のRaphidascaris 属線虫は世界に2種類おり、R. acusは北米とユーラシアに分布しています。もう1種は日本固有種と考えられるR. gigi で、我々の調査によると、琵琶湖周辺のいろいろな魚種に寄生しています。おそらく、R. acusはヨーロッパウナギと一緒に日本に輸入されたのでしょう。近年、ヨーロッパウナギは日本の数カ所の川で大量に生息していることが報告されていますが、琵琶湖からはまだ記録されていません。

甲殻類

 移入とおぼしき最後の寄生虫は、カムルチーのえら上で発見された橈脚類(甲殻類の一分類群で、ケンミジンコの仲間)です。これは浦和博士によってLamproglena chinensisと同定され、さらに詳しい研究がポーランドのシュチェチン農業大学のW・ピアセツキ博士の研究室で進められています。この橈脚類は、コイやその仲間の魚でよく知られているイカリムシに近縁です。これは、2001年の岐阜県のカムルチーからの報告に続き、日本で2例目のLamproglena属の記録となります。今まで、L. chinensisは中国だけから報告されており(宿主は同じくカムルチー)、この魚が移入される前から日本にいたとは考えられません。



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