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主任学芸員
 八尋 克郎
(陸上昆虫学)

写真は、観察会で昆虫を子どもたちと探す筆者

特集

のぞいてみよう博物館の舞台裏

1.博物館の舞台裏

▲植物標本の整理
▲地学収蔵庫に搬入された整理を待つ資料
 皆さんが博物館ときいてまず思い浮かべるのはモノが並ぶ展示室の光景ではないでしょうか。しかし、展示室にあるモノは、博物館が収集しているモノのごく一部にすぎません。博物館の舞台裏には、展示室よりもずっと多くのモノが博物館資料として整理され、収蔵庫に保管されています。また、収集された膨大な資料を整理したり、生きた魚を飼育したりするたくさんの人が働いています。このように、展示室という舞台の裏側で働く多くの人たちが博物館の研究や展示などの活動を支えているのです。
 しかし、”みなさんが博物館ときいて展示を思い浮かべる”、と私が思うように、これまで多くの博物館では、展示を支える裏方の活動を十分に紹介してきたとは言えません。そこで、琵琶湖博物館では、その重要性を知っていただくために、4月から2ヶ月間、第1回博物館資料展「のぞいてみよう博物館の舞台裏」を開催することになりました。

2.ギャラリー展示 第一回博物館資料展
「のぞいてみよう博物館の舞台裏」

 各地の博物館がこれまで資料展を行ってきましたが、それはどちらかというと収蔵庫に収まっているモノの紹介が主体でした。しかし、今回の琵琶湖博物館ギャラリー展示は、資料を整理する人の活動紹介が主体となっている点で、これまでのものとは少し違っています。つまり、今回のギャラリー展示では、資料整理という博物館の舞台裏の活動を、標本作製などの実演も含めて見ていただくことにしています。
 では、なぜモノではなく、働く人々の活動が展示の主体となっているのでしょうか。博物館の舞台裏は眺めているだけでもおもしろいものです。私も、博物館にいなければ、これほど多くの人々が舞台を支えているとは気が付かなかったでしょう。博物館の舞台裏では、ありふれたどこにでもあるモノが、ヒトと関わる中で「博物館資料」となっていきます。皆さんにも、ぜひ、そのおもしろさを知っていただきたいと思います。しかし、このような展示を企画したのは、もうひとつの理由があります。それは、博物館の資料とはいったい何かということについて改めて考える必要があると思ったからです。
 通常、博物館の資料として思い浮かぶのは、化石や植物などのモノです。収集される膨大なモノを保管・整理する努力を多くの博物館では行っています。目的にあった資料を簡単に見つけられるよう、博物館資料を、整理・保管する必要があるからです。
 琵琶湖博物館でも活動の基本は同じです。しかし、モノをそのまま博物館資料とみなせるかというと、そうではないと私たちは考えます。モノから「価値ある」情報をヒトがひきだすことで、モノは博物館資料となるのです。というわけで、学芸職員や外部の人々が収集し博物館に持ち込んだ「モノ」が、多くの人々の手を介して、どのように整理、保管されて、研究や展示にいたるかというプロセスを紹介したいと考えています。

3.博物館にとっての
資料整理の意義・利用と保存

 このように、博物館にとって、資料整理は展示や研究に欠かせない重要な活動です。その一方で、博物館が行う資料整理は、一般の利用者にとってどのような意義があるのでしょうか。収集された資料は、整理されなければ利用しにくくなります。図書館を思い起こせばわかりやすいでしょう。つまり、資料整理の目的は、通常は、図書館でも博物館でも収蔵している資料を一般の人々が利用しやすくするためです。
▲動物収蔵庫 ▲液浸収蔵庫
 一方、博物館は収蔵された資料を後世に残す場所であり、大切に資料を保存することがもっとも重要であるという考えかたもあります。これは、日常生活とかけはなれた貴重品を資料として収蔵する博物館でみられる考え方です。このような考え方にたつと、場合によっては保存と利用が矛盾しかねないという問題が生じます。あまり利用せずに、収蔵された貴重な資料を末永く保存しようという意見もでてくるからです。
 これに対して、私たちは、少し違った考え方をしています。琵琶湖博物館には、「湖と人間」というテーマがあり、フィールドに生きる人々の日常生活にポイントをおいて、湖と人間との関係を歴史的に考えることを重視しています。したがって、貴重品ではなく、ごくありふれた資料に高い価値をおくことになりますが、その場合、保存と利用を一体の事柄と考えることが必要となります。川や水路など地域環境の保全にとって持続的利用が大切なように、広範な人々が利用しつづけられない資料は、地域博物館でも保存できなくなると考えるからです。
 このように、琵琶湖博物館では、「保存するために資料は利用されなければならない」という考え方にたっています。もちろん、博物館資料を大切に保存していくことは重要です。しかし、琵琶湖博物館の場合、資料を、地域の資料として大切に保存し、後の世代に引き継ぐためにも、人々の利用が不可欠なのです。そのため、一般の人々が利用しやすいように、総合的な視点で資料を整理し、管理していくことが博物館に求められることになるでしょう。

4.総合研究「博物館資料の収集・整理・保管と利用」に向けて

▲民具の撮影の様子
 琵琶湖博物館では、生物学、地学、社会学、歴史学、博物館学など専門を異にする学芸職員が集まり、資料の収集・整理・保管と利用についての総合研究を行っています。琵琶湖博物館を例として、これからの博物館にふさわしい資料の見方や保存と利用についての考え方を作りあげることが最終的な目標です。
 この総合研究では、資料の価値とは何かを出発点としながら、人と自然の研究から多くの意味のある情報をひきだすことや、地域にすむ多くの人とともに行う参加型調査の方法、また、失われつつある資料を情報として活用しながら保存していくこと、さらには資料利用者の地域的なネットワーク化などを検討しています。この研究でえられた成果は、いずれ詳しく紹介いたしますが、今回のギャラリー展示「のぞいてみよう博物館の舞台裏」は、この総合研究の成果を生かしてつくられています。




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