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琵琶湖博物館収蔵品ギャラリー

私の逸品

学芸員 矢野 晋吾(環境社会学)

スッポンの赤ちゃん


 7月半ば、昼食のひととき。水産学の桑村さんの言葉に思わず箸が止まった。「昨日、湖岸を歩いてたら、スッポンが卵を産みに上がった足跡がいくつもあった」。
 スッポンが産卵? 琵琶湖に野生のやつが住んでいるの? 矢も楯もたまらず、その日の夕方、とある南湖岸を案内してもらった。湖岸はバス釣りの人で埋まっている。まさか、こんな所にスッポンが来るのか。「これが卵の殻。狐が掘って食べたあとや」と、桑村さん。野生の狐? 人通りの多い観光地に、そんなものまで棲んでいるとは。恐るべし琵琶湖。
 早速、狐が食べ残した卵を集めた。同行した当館の理科教育の中川さんと3人で実に100個以上の卵を研究室へ持ち帰った。
 忘れもしない8月9日の朝。いつものように卵をみると、砂の上に並べたはずの卵が一部ひっくり返っている。よく見ると、一つは殻だけになって中身がない。背筋がぞくぞくしたまま、砂をどけてみる。動いたっ!「産まれた」と思わず叫び、あまりの感動に、すぐに館内に見せてまわった。かくして私は未婚の父として、育児に追われる日々が始まった。
 この小さな丸い子どもたちの最大の親孝行は、人の輪を大きく広げてくれたことだ。館の関係者はもちろん、来館してくれる子どもたち、そして、そんな方々のさらに知人まで。思いがけない人から「スッポン、元気ですか?」と声を掛けてもらった。琵琶湖と生き物をめぐって人間関係が繋がりゆく。スッポンは社会学の基本を教えてくれた先生でもある。


表紙の写真
(赤ちゃんスッポンの腹甲)

 私の逸品で紹介した琵琶湖産スッポンの腹甲です。今回、孵化した時の甲羅の長さは背中で30o前後でした。赤い部分は親になると黄色っぽい色になります。模様は1匹ずつ違っているので、簡単に個体識別できます。腹甲は卵から出る時は前屈みになっているように真ん中で二つに折れていて、中心に卵黄がついていますが、すぐに平らで堅い甲羅になります。
(写真撮影:内藤又一郎)

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