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特集

[Various Environments of Lake Biwa and its Fishes ; Aquarium Exhibits in the Lake Biwa Museum]

琵琶湖の環境と魚―博物館の水族展示―

学芸員 桑原雅之(魚類生態学)

「沖合を回遊する魚ビワマス」の水槽の魚の群

 琵琶湖には現在55種類の魚類が生息し、ほかにも貝類やエビ類など多くの生物が生息しています。また、それらの中には琵琶湖にしか生息しない固有種、もしくは固有亜種とされる種類も少なくありません。国内の淡水域で、これほど多くの固有種・亜種を育んでいる水域はほかにありません。それは、琵琶湖の持つ世界でも有数の古い歴史と、琵琶湖全体を構成する複雑で特徴的な環境によるものなのです。水族展示では、この特徴的な琵琶湖の環境を、そこにすむ生き物とともに再現し紹介しています。

 琵琶湖にもっとも特徴的な環境は、北湖北部の湖岸を中心に発達している急深な岩場と、それに連なる広大で深い沖合です。水族展示では、「岩場から沖合にすむ魚たち」の水槽で、この環境を再現しています。この水槽では、再現された岩場から沖合の環境を、水中を通るトンネルから魚と同じ視線で見ることができるようになっています。 岩場を代表するのは、固有種であるイワトコナマズです。イワトコナマズは、急深で割れ目の多い岩場で生活して行くために、普通のナマズとは違う特徴を持っています。最大の特徴は、普通の魚と同じように、目が頭の横についているという点です。これは、普通のナマズが水底で上を通る獲物を待ち伏せしているのに対し、イワトコナマズの場合は中層を泳きながら、岩の割れ目にいる獲物を見つけだすのに都合がよくなっているためといわれています。 ほかにも岩場には、アブラヒガイやギギなどが生息しています。岩場から沖合の方に目を向けてみると、ゲンゴロウブナの群を見ることができます。固有種であるゲンゴロウブナは、体長50cm、体重3kgにもなる大きな体と、見るからに力強い大きな尾鰭(オビレ)を持ち、琵琶湖の広い沖合をダイナミックに回遊しています。また、ほかのフナ類と違って、沖合の表層にたくさん生息している植物プランクトンを主食にしています。ゲンゴロウブナは、小さな植物プランクトンを効率よく食べるために、鰓耙(サイハ)という器官を発達させました。 ほかにもホンモロコやアユ、ハスあるいは琵琶湖の主ビワコオオナマズなども、この沖合の住人です。ビワコオオナマズは、体長1m以上にもなる大きな体を持ち、強力な顎と鋭い歯をそなえた大きな口で、他の魚を捕食しています。

「岩場から沖合にすむ魚たち」のトンネル水槽。ここではいろいろな魚を、その視点から観察することができます

 ところで、沖合の深場、水深10〜20m以深には、年間を通して水温が15℃以下の冷水帯があります。この冷水帯のおかげで、温帯域の湖である琵琶湖にも、冷水性のサケ科魚類であるビワマスさえも生息することができるのです。

 琵琶湖にすむ固有魚種の多くは、この岩場から沖合にすんでいます。ここまでに出てきた、イワトコナマズやビワコオオナマズ、ゲンゴロウブナやアブラヒガイ、ホンモロコにビワマスなどのほか、ニゴロブナ、イサザそれにウツセミカジカなども岩場から沖合に生息する固有種の仲間です。水族展示では、これらの魚種を「岩場から沖合の魚たち」の水槽のほか、「琵琶潮の主ビワコオオナマズ」水槽や、「沖合を回遊する魚ビワマス」水槽、それに琵琶湖の小さな生き物たちのコーナーで紹介しています。

 ふだん沖合で生活している魚たちも、産卵は岸辺でおこなわなければなりません。琵琶湖の湖岸の環境の中で、魚たちの繁殖にとって重要になってくるのが、ヨシ原や内湖などの沿岸の水草帯です。ここには、早春から初夏にかけて、ふだん沖合に生活しているゲンゴロウブナやニゴロブナ、ホンモロコなどのほか、コイ科の魚たちを中心に多くの魚種が産卵のために集まってきます。また、ここにはふだんから、ギンブナやコイをはじめとして、ワタカやタモロコ、タナゴ類など多くの魚種が生息しています。

 水族展示の入り口に設置されている「内湖ヨシ原にすむ魚たち」の水槽では、その環境とふだんそこにすんでいる魚たちを見ることができます。また、この水槽は屋外に設置され、水槽の後ろに広がる琵琶湖と比良、比叡の山々を同時に見ることができるようになっています。このことによって、再現されているヨシ原の環境に、より現実感をあたえています。

「内湖ヨシ原にすむ魚たち」の水槽では、水中のようすがうかがえます

 琵琶湖に生息する魚たちにとって、琵琶湖そのものの環境もさることながら、琵琶湖に流れ込む河川も重要な意味を持っています。とくにふだん沖合に生息するビワマスやアユ、ハスなどの魚類は、流入河川に遡上して産卵します。また、河川を主な生活の場としている魚類も少なくありません。水族展示では、これら流入河川の環境についても同様に再現し、見ることができるようになっています。さらに、琵琶湖の魚の生活をよりよく理解していただくための比較として、世界の湖の中から洞庭湖、トンレサップ湖、タンガニーカ湖、五大湖を取り上げ、そこに生息している魚たちの展示もおこなっています。

 ところで、残念なことに近年人間の活動によって淡水域の環境は激変し、絶滅してしまったり、絶滅寸前にまで迫い込まれてしまった生物が少なくありません。琵琶湖博物館水族部門では、アユモドキやネコギギなどの絶滅に瀕する淡水生物の生息状況を調査し、現状を把握するとともに、保護増殖センターという専門の施設を設け、飼育下での繁殖を試みるなど、これらの生物の保護と増殖にも力を入れています。水族展示の「よみがえれ! 日本の淡水魚」のコーナーでは、これらの中でもとくに生息基盤の弱い生き物を展示し、あわせて保護増殖活動のようすも見ることができるようになっています。

「よみがえれ! 日本の淡水魚」のコーナー。生息基盤の弱い生き物を展示し、保護増殖活動のようすも見られます

 このように水族展示では、来館者のみなさんに自然あるいは生き物の側から見た環境に思いをはせていただき、さらに私たち人間と、そこにすむ生き物も含めた環境とのよりよい関係について、もう一度考えるきっかけになることを目標として、活動をおこなっています。

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