環境統計学 数学的補遺

大塚泰介

1.不偏分散を求めるときに n - 1 で割るわけ

 まず,母集団における平均の意味について考えてみる。f (x) の期待値を,E {f (x)} と表現することにする。この書き方によれば,母集団におけるx の期待値μは次のように表現される。
μ = E (x)
 同じように考えると,母分散σ2 は次のように表現される。
σ2 = E {(x -μ)2} = E (x2 ) - {E (x)}2

2変数の和の期待値は,2変数の期待値の和になる。
μx+y = E (x + y) = E (x) + E (y)
また,kxk は定数)の期待値は,x の期待値の k 倍である。
E (kx) = k・E (x)

この2つの演算法則を用いて,x + y の分散について考える。x の期待値をμxy の期待値をμy とすれば,
σ2x+y = E [{(x + y ) - (μxy )}2]
= E [{(x x ) + (yy )}2]
= E {(x x )2 + 2 (x x ) (yy) + (yy )2}
= E {(x x )2} + 2・E {(x x ) (yy )} + E {(yy )2}
2x + 2σxσy2y
E {(x x ) (yy )} =σxσy共分散と呼ばれる。
x y が互いに独立であれば,共分散の値は0である。その場合,分散には次式の線形性が認められる。
σ2x+y2x 2y
つまり,2変数が互いに独立であれば,2変数の和の分散は,2変数の分散の和になる。
 ただし,標準偏差については,このような線形性は成り立たない。
σx+y =(σ2x 2y )1/2
kxk は定数)の分散は,x の分散の k2 倍である。
σ2kx = E {(kx - kμx )2}
= E {k2(xx )2}
= k2σ2x

以上の事から,n 個の互いに独立な測定値 x1, x2, ..., xn の1次結合Σkixi がもつ分散は,測定値それぞれの母分散σ21, σ22 ..., σ2n を用いて次のように表すことができる。


ここまで見てきた分散の性質に基づいて,n 個の互いに独立にとられた標本から算出された平均値 m の分散,つまり標準誤差σm の二乗について考えてみる。

 すると以上のように,標準誤差の二乗は分散を n で割ったものになる。したがって標準誤差と標準偏差との間には,
σm = n-1/2・σx
の関係が成り立つのである。

 次に標本分散の期待値について考えてみる。まず,変動 Sx を標本から算出すると,

両辺の期待値をとると,

したがって,標本から求められた変動 Sx n - 1 で割ったものが不偏分散になる。

これが不偏分散を算出するときに,n ではなく n - 1 で割る理由である。

問題A
 ある授業で試験を2回したところ,2回とも受験した学生の平均点,分散,標準偏差は次のようになった。

1回目 2回目 合計
平均 41.6 30.5 72.1
分散 25.4 62.9 132.1
標準偏差 5.0 7.9 11.5
 この表を見ると,「平均の和は和の平均」という法則は成り立っているが,「分散の和は和の分散」という法則は成り立たず,和の分散の方がはるかに大きくなっている。
 このようになった理由について推察せよ。

2.積率母関数 -分布の平均と分散を求める-

g (x) = eθx を,次のようにマクローリン展開することができる。

次に,eθx をθに関する関数 M (θ) として見てみる。M (θ) を微分した後に θ = 0 とおくと,

また,2階微分した後に θ = 0 とおくと,

このように,M (θ) を n 階微分した後に θ = 0 とおくと, xn となる。この性質を用いて,ある統計分布における密度関数(または確率関数)とM (θ) との積を全範囲にわたって積分(または合計)したMx (θ) をn 階微分した後に θ = 0 と置くと(つまり Mx(n) (0)),その統計分布における xn の期待値を求めることができる。これは原点のまわりでの n 次の積率(モーメント)にあたる。そこで Mx (θ) を,その密度関数(または確率関数)の積率母関数と呼んでいる。
たとえば標準正規分布について積率母関数を計算すると,

なお,計算の最後のところで標準正規分布の全範囲積分が 1 になることを利用している。
これを微分して θ = 0 と置くと,

したがって,μ = E (x) = 0
また,2階微分してθ = 0 と置くと,

したがって E (x2) = 1,
σ2 = E {(x - μ)2}
= E (x2) - μ2
= 1 - 02 = 1

ポアソン分布についても積率母関数を計算してみる。

 なお,計算の途中でλ・eθ = y とおいて,マクローリン展開

 を逆に用いている。

これを微分して θ = 0 と置くと,

したがって,μ = E (x) = λ
また,2階微分してθ = 0 と置くと,

したがってE (x2) = λ2 +λ,
σ2 = E (x2) - μ2
= (λ2 +λ) -λ2

問題B
 同様にして,正規分布

についても平均と分散を求めてみよ。

キーワード:共分散線形性積率積率母関数

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